羽生善治四段(当時)のとても思わせぶりな自戦記

近代将棋1988年3月号、羽生善治四段(当時)の連載自戦記(C級2組順位戦 日浦市郎四段-羽生善治四段)「実戦心理」より。

 この対局が昨年の順位戦の最後だったので、一年の締めくくりとしていい将棋が指せたらなーと思いつつ将棋連盟に行った記憶があります。

 対戦相手は日浦市郎四段。

 この一局がどういう意味を持つかは皆さんも解っていると思います。

 ですから、僕がどういう気持ちでこの対局を迎えたのかも解っていると思います。

 だから、僕がその前日にどういうことを考えていたことの具体的なことまでは解らないかもしれませんが、だいたいどういうことか想像がつくと思います。

 したがって、対局が終わった後にどういう気持ちになったということもだいたい思い浮かぶと思います。

急戦矢倉

 戦型は予想通り矢倉になりました。

 1図の後手の陣形は以前は全く指されませんでしたが、最近はよく見かける形です。

(以下略)

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羽生善治四段(当時)の何とも思わせぶりな出だし。

この自戦記は、この後、棋譜の解説がほぼ100%で、出だしを補足するような記述はない。

いったい何があったのだろうと思い、調べてみた。

しかし、この前後に羽生四段にとって特に大きな出来事はなく、また日浦市郎四段が対羽生戦で連勝して”羽生キラー”と呼ばれるのもこの翌年のこと。

そこで基本に立ち返り、順位戦の勝敗表を見てみた。

羽生善治四段(当時)は、順位戦でここまで6連勝。

この対局直前の段階で、C級2組の全勝、1敗の棋士は次の通り。

3位 森下卓五段 5勝1敗
6位 羽生善治四段 6勝0敗
8位 泉正樹五段 6勝0敗
9位 日浦市郎四段 5勝1敗
10位 大島映二五段 6勝1敗
14位 有森浩三五段 5勝1敗
17位 達正光四段 5勝1敗
18位 大野八一雄四段 5勝1敗
28位 依田有司五段 6勝0敗
51位 村山聖四段 5勝1敗

たしかに、ここで羽生四段が1敗の日浦四段に敗れると、昇級の目は残るものの、自力ではなくなる可能性が出てくる。おまけに1敗の棋士が多く、非常に気が重くなるような状況となる。

気持よく正月を迎えるには、対日浦戦を勝つのと負けるのとでは気分的に天地の開きが出てきそうだ。

そういう意味では純粋に、「ぜひとも勝っておきたい」と羽生四段が思っていたということなのだと思う。

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この期は、10勝0敗の羽生善治四段と泉正樹五段、9勝1敗の村山聖四段が昇級を果たしている。