井上慶太八段(当時)「こ、この人があぁぁぁぁぁぁ!」

近代将棋2002年1月号、神吉宏充六段(当時)の「関西マル秘情報」より。

 2001年7月1日……これからこの一日が、将棋界には大きな意味を持つことになるだろう。

 え、なんの日だったかって?そりゃもう旦那、あの日でしたがな。ほれ、内藤國雄九段と有吉道夫九段の犬猿の仲、いやライバル関係に友情が芽生えた日っちゅうたら思い出してもらえますか?(→雪解けその7月1日、初めて二人でイベント出演してから内藤九段曰く、

「友情が芽生えたネ」。

 いま世間から見ると、関西は谷川浩司九段が無冠で、すべてのタイトルを東に取られて元気がなく見えるようでこのままでは寂しい限り。応援するファンが楽しめて関西をアピールできるものはないものかと、仲間はみんな考え悩んでいるのである。そこで……それではと立ち上がったのがこの大御所二人。

内藤「ワシと有吉さんが二人でやって、それで喜んでもらえるんやったらそれでええやないか」と、イベントに二人で出演することに快諾。先日も兵庫県加古川市で行われたイベント、舞台で内藤-有吉戦が行われファンを楽しませたのである。

 さて、その解説を務めたのが井上慶太八段。本番前、ケイタ先生、二人にいろいろ話しかけた。

井上「席上対局を二人でされたってことは初めて違うんですか?」

有吉「大体一緒に出演したことがないからね」

内藤「ン?どやったかいか……確か昔、大山康晴十五世名人の就位式やったかな、東京のサンケイホールで有吉さんと席上で喋った記憶があるねんけどなあ」

有吉「そうだった?ああ、あれは名古屋じゃなかったの?」

 どうやら二人とも相手を意識しすぎで場所を覚えていないのだ。しかし、席上対局のあるなしについては両者の意見が「ない!」と、一致していた。

 対局前の挨拶もおもしろかった。

有吉「私と内藤さんは、よく犬猿の仲と言われてますけど、それほどでもないんですよ」

 ふーむ、犬猿の仲ほどはひどくないとは……では一体どれほどの仲なんだろう?サルキジの仲か、それとも???とケイタは悩むのであった。

 ところで井上八段、この二人のライバル対決を解説するために、対戦成績や対局数を調べることにした。

 そこでフッと考えた。「ライバルっちゅうんは、やっぱり一番対戦しとる人のことやろなあ。谷川先生は羽生さんやし、古くは阪田三吉-関根十三世名人、大山十五世名人と升田九段もそうやったなあ。ン?ワシのライバルって誰になるんやろ?」と思い立ち、棋士になって20年弱、これまでに戦った対戦者の記録を調べだした。そしてその結果を見てケイタは驚いた。

「こ、この人があぁぁぁぁぁぁ!」と絶叫したのである。対局の多かったのは、3位が浦野真彦七段、2位が有森浩三七段、そして栄光の1位は、なんと私だったのだあぁぁぁぁぁぁ!

「わっはっは、そうか、私のライバルは慶太かあ!どゃ、光栄やろ!?」と聞くと、頭を抱えてケイタ「ふーむ、……何か複雑な気分ですわ」

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あれは2000年のことだった。携帯電話の明細を見ながら、誰に何回電話をしているのだろうと思い、集計をしたことがある。

1位は予想通りだったが、2位、3位が意外な相手だった記憶がある。

頭の中で思っているイメージと物理的な実態が違うことも多いのだろう。

一緒に飲みに行ったことのある人の回数TOP10のような集計は今となっては不可能だが、「回数は多いと思っていたけど、まさかこの人が1位とは」、というような結果になるのかもしれない。