将棋世界1983年9月号、「内藤王位の一番弟子 神吉宏充新四段」より。
今年度に入って初めての四段が関西の奨励会から誕生した。7月26日の例会で見事昇段したのが神吉宏充新四段である。
さっそく四段昇段の感想を聞くために関西本部に電話を入れたところ、「有難うございます。昇れて嬉しいです」と本当に喜び一杯の神吉四段の声が向こう側から返ってきた。
神吉宏充四段は、兵庫県加古川市出身、昭和34年3月1日生まれの24歳。
中学校1年生の時、おじさんに将棋を教えてもらい覚えたというのだからかなりの晩学といえる。52年のアマ名人戦の兵庫県代表になり、本戦では第3位になっている。そして、内藤王位を知っている人を通して内藤門下となる。53年11月、1級で奨励会入会。54年5月初段、55年2月二段、56年2月三段と順調に昇段していく。しかし、三段になってから4回もの四段昇段のチャンスをつぶしてしまう。このことを本人は「あまり気にしませんでした」というのだからかなりの楽天家だ。そして此度、2回目に12勝4敗を取り四段に昇った。
神吉四段と親しい谷川名人は、「身体に似合わず勝負弱かったのですが、将棋の力はあったのでいつかは四段に昇ると思い別に心配はしていませんでした」とのこと。
ここで身体の事が出てきたので少し触れておくと、身長177cmは別に問題はないのだが、体重はなんと105kg。とにかく体重の点では現在連盟一だ。
「普通の人の1.5倍位しか食べませんよ。まぁ食べようと思えばいくらでも食べられますけれど」と事もなげに言う。先月号の「神戸だより」を御覧になった方なら神吉四段の食べっぷりが目に浮かぶだろう。
「ほとんど悩み事がないので太る一方です。体重の方の目標はプロレスラー並みの120~130kgです」と四段昇段のチャンスをつぶした事を気にしなかったというだけはあってかなり図太く勝負師向きだ。
この神吉四段、身体に合わせて?棋風は受け身。「自分では受け五分位だと思うのですが、周りのみんなは受け八、九分だと言っています。攻めていると思ってもいつの間にか受けになっているのです」というから師匠の内藤王位の華麗な棋風と異なり所謂”関西将棋”の血統なのだろう。
趣味はパソコンいじりと映画鑑賞。特に映画の方は、オカルト映画が好きという。新作があれば必ず見るらしい。「殺され方の美学」とやらに興味があるのだそうだ。
将棋の方の目標は?と聞くと「A級八段になることと話題のある棋士になりたい」と言い、恋人は?の質問には「僕ももうトシですから、色々と」意味深長な答え。近いうちにその方面での話題を提供してくれそうだ。
最後に尊敬する棋士という問いに「内藤先生です。将棋の技術だけでなく人間性の点でも尊敬できます」とキッパリ。内藤王位の一番弟子は大きく伸びていくだろう。
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将棋界にとって得難いキャラクター、神吉宏充七段の新四段時代。
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1983年の頃に自宅でパソコンを使っていたのだから、かなり先進的だ。
企業では1部署に1台入り始めたかどうかという時代。
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オカルト映画はホラー映画の中の一つのジャンル。
悪魔、魔女、吸血鬼、宗教的な因果、幽霊、などが出てくるホラー映画がオカルト映画ということ。
「吸血鬼ドラキュラ」はオカルト映画になるが「フランケンシュタイン」はホラー映画になるという分類。
しかし、この時代にホラー映画という言葉があったかどうかは定かではなく(オカルト映画という言葉はもっと前の時代からあった)、神吉宏充四段(当時)が現在で言うホラー映画全般を好きだったのか、狭義のオカルト映画が好きだったのかは判断のつかないところ。
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オカルト映画ではないが、今の季節になると思い出すのは、横尾忠則さんが描いた昔の少年マガジンの表紙。
クリフト・ファー・リー演じるドラキュラの顔が右上にあり、左下には恐怖に怯える外人美女。そして全体を取り巻く緑色の得体の知れない何か。夜明け前のおどろおどろしい沼のようにも思える。
もうマンガ誌は読んでいなかったけれど怖い話が好きだった私は、この号を迷わずに買った。
どんな怖い話が載っているだろうと思って隅々まで探しても、怖い特集や話は一つもなく、ガッカリした思い出があるが、逆に言えば思わず買ってしまうほどのインパクトのある表紙だった。
調べてみると、1970年8月16日号とある。
先崎学九段は生まれたばかりで丸山忠久九段、羽生善治名人、藤井猛九段が生まれる直前の頃。
1枚のイラストでオカルト映画的な恐怖を見事に表現しているのだからすごい。