関東奨励会VS関西奨励会の野球決戦

将棋世界1984年6月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 野球シーズンである。奨励会にも今年から「キングスジュニア」というチームが発足し、練習もなしにいきなり試合をやるという暴挙に出たのであるが……。

 なにしろピッチャーの小林広明はストライクがせいぜい5球に1球というノーコン。たまに内野ゴロを打たせても、それを中田宏樹、小池英司あたりがうまくグラブに入れる確率は50%。そして取ったあと一塁にストライクを放れる確率は40%。仮に一塁にいい球が行ったとしても、ファーストの塚田貢司がちゃんと捕る確率といったら20%ぐらいしかない。外野はと言えば、いやもう書くまい…。

 とにかく、審判もあきれれば、相手チームも怒りだす寸前、という珍しい試合だった。たった5回で29点も取られれば、もうこりただろうと思っていたらそうではなく、早くも次の試合の相手を探しに走りまわっているそうである。初勝利はいつの日か。いや、それに付き合わされる相手チームがかわいそうになってくる。

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将棋世界1984年7月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 29対6という、記録的な大敗でスタートした、奨励会員中心の野球チーム「キングスJR」は、スコアこそ徐々におとなしいもの(それでも公表ははばかられる)になってきたが、まだ片目があかない。

 高徳監督も色々と苦心してオーダーを入れ替えているようだ。まず、青函トンネルの穴だって通さないだろうと言われる、常識外のコントロールを誇る小林広明は、当然ながらピッチャーは使えないということになって外野へ。外野なら、とりあえずホーム方向へ返球すれば一塁から三塁の間には球が来るだろうという鋭いヨミ。

 もうひとつのガンである、ファーストの塚田貢司(捕球率なんと20%足らず)は、せっかくミットを新調したところだがお引取り願ってベンチへ。かわって達が定位置を占めた。こんどは50%近い捕球率だからかなり期待できる。

 新エースには、高徳監督自らがマウンドに立つことになった。球速は50キロぐらい落ちるが、ストライクは入るらしい。(必然的に打たれる。結果は同じかな?)まあ、頑張って欲しいものだ。

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将棋世界1984年12月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 東西合同の2泊3日の研修旅行に同行取材した。そのネタだけで今月は大丈夫の予定でいたのだが、それは甘い考えだった。

 活字になってはいけない事件ばかりがわんさか起きたのである。

”真実を伝える”がモットーである当欄だが、放送禁止用語ばかりでは記事にならない。ほとぼりのさめたころに、なつかしい思い出としてご紹介するというのがスジというものだろう。もっとも、関西のマッチ氏がどういう態度に出るかは知らないが。

 しかし、I藤三段のカラミ酒には関西の方々も驚いていたなあ。T岡三段の◯◯◯◯絶叫酒もすごかったし、T幹事のオカマ追いかけまわされ事件も……いやいやこれ以上はやめておこう。奨励会の品位が疑われてはいけない。

(中略)

 スポーツの秋だ。先日行われた、関東奨励会キングスジュニア対関西奨励会シルバーズの野球の初対決は、7イニングをにぎやかに戦い、なんと17対16という猛スコアでキングスジュニアが逆転サヨナラ勝ちを果たした。見ている者を笑わさずにおかない好ゲームであったが、詳しいことは言わぬが花というものだろう。

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将棋世界1984年12月号、浦野真彦四段(当時)の「マッチの突撃レポート」より。

★夢の球宴

 時は、9月26日。所は神宮球場のすぐ近く。テニスを楽しむ女子大生達の隣で、東西対抗野球(シルバースVSキングスジュニア)が行われた。応援には、中井広恵二段、山田久美初段をはじめ、続々と集まり、将棋世界、マガジン両編集部からは、大勢の取材陣がやって来た。

 そして、いよいよ午後2時。審判の声が高らかに響いた。

★1回表、波乱の幕開け

 先攻は、シルバース。マウンド上は、キングスJr期待のエース小田切2級。その小田切投手、1番の神崎二段をキャッチャーフライ、2番の高木1級を三振に打ち取る見事な立ち上がり。続く野間初段に対しても、簡単にセンターフライを打たせ、ゆうゆうとベンチに引き上げようとした。ところが、何やら関西ベンチの方が騒がしい。振り返ってみると、野間君が走っている。「アレ?」なんと、センターポロリである。思いがけないピンチを迎えた小田切投手、気を取り直し、続く4番打者伊藤四段を、サードゴロに打ち取った!かに見えたが、しっかりとエラー。5番阿部二段のサードゴロも、一塁へ矢のような悪送球。

 こうなれば、押せ押せのシルバース。野田、森本のアベックホーマーも飛び出し、この回6点を挙げて、幸先のいいスタートを切った。

★1回裏、すかさず反撃

 思いがけない先制点をもらって意気上がるシルバースの先発投手は、脇六段。試合前「7点以内に抑えます」と豪語していた脇投手だが、いきなり1番中田三段にフォアボール。2番の泉四段は打ち取ったものの、3番の小池1級にもフォアボール。そして、4番高徳二段、5番達四段に連続タイムリーを浴び、たちまち3点を返されてしまった。尚もチャンスが続くキングスJr、バッターは島五段。見るからに強打者という感じの島先生だが、不思議とボールがバットに当たらない。気の毒に思った私は「もっと下半身を使いなはれ!」とアドバイスしてあげたのだが、あっさり三振に終わってしまった。しかし、続く7番伊藤5級がタイムリー。結局キングスJrはこの回4点。大乱戦必至となった。

★めったに見られない泥仕合

 稀にみる熱戦である。私がちょっと目を放し、テニスコートを見ているうちに、7回表を終わっていたが、得点は16対14でシルバースがわずかにリード。残すは7回裏のキングスJrの攻撃のみとなった。

★7回裏”放火魔”阿部

 最終回、シルバースのマウンドには、火消し役として阿部君が上がった。ところが、彼は、初球ストライクの後、11球連続ボール。アッという間に、一塁と二塁に、火を付けてしまった。しかも、バッターのカウントは、スリーボール。たまりかねた脇先生、マウンドに戻ったが、フォアボールでノーアウト満塁。こうなっては、もういけない。続くピッチャーゴロが悪送球を誘い、悪送球がエラーを呼び、なんと3人のランナーが次々とホームイン。17対16で、キングスJr劇的なサヨナラ勝ちとなった。

★終わって一言

”4打数3安打3打点顔ドロだらけ”で、見事MVPに選ばれた

高徳二段「なんで私が?」

敗戦投手阿部二段「えぇ、まあ、ひどかったですね……」

山田久美初段「こんな面白い野球二度と見れないでしょうね!」

中井広恵二段「脇先生がこけたのが、印象的でした」

”大地に向かって豪快におこけになられた”脇先生「イヤー、ナイスゲームでしたね―」

 両軍とも、お疲れ様でした!

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キングスジュニアの先発投手・小田切2級は、「こども将棋教室 棋友館」の小田切秀人指導棋士五段。

シルバースの火消し役のはずだった投手・阿部二段は、16歳の頃の阿部隆八段。

島朗五段が21歳、泉正樹四段が23歳、達正光四段が19歳、中田宏樹三段が20歳、脇謙二六段が23歳、伊藤博文四段が24歳、浦野真彦四段が20歳、野田敬三三段が26歳、神崎健二二段が20歳、野間俊克初段が20歳の頃。

試合中も試合後も、相当盛り上がったことだろう。

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I藤三段は、伊藤能三段(当時)、T岡三段は富岡英作三段(当時)、T幹事は滝誠一郎奨励会幹事。

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銀遊子さんも浦野真彦四段(当時)も書けなかった奨励会旅行がどのようなものだったのか、気になって仕方がない。