好事魔多し

将棋世界1984年3月号、神谷広志四段(当時)の「1ページ講座」より。

 1図は部分図ですが、穴熊の敵玉をどう寄せるかという所です。

 候補手をいくつかあげておきますので第一感で答えてみて下さい。

 分かりやすくするため後手の持駒はなしとしました。

A ▲7二と
B ▲6三と
C ▲7二金
D ▲8二金
E ▲7三竜
F ▲8一竜

神谷1

 まずAの▲7二とは以下△同銀▲同竜と進みます。と金と銀の交換で得をしたようですが▲7二同竜とした局面が詰めろになっていません。しかも桂以外の駒を相当もらっても後手玉は詰まない形をしていますので、一手争いの終盤では大抵負けになるでしょう。

 Bの▲6三とは、この手自体が詰めろではなくAと同じ理由で失敗です。

 Cの▲7二金は以下△同銀▲同ととなり後手玉は必至です。自玉が詰まない場合はこれで勝ちですが、もう少しうまい手を考えて下さい。(金1枚の持ち駒の時は、これが最善の寄せでしょう)

 Dの▲8二金は詰ましにいった手ですが、△同銀▲同竜△同玉▲7一銀△7三玉▲6三金△8四玉で詰みどころか逃がしてしまい大失敗です。

 Eの▲7三竜は△同桂には▲8二金以下詰みですのでこれで必至となります。金を渡さないだけCの▲7二金より優れていますがもっといい手があるためここでは次善手ということになります。

 Fの▲8一竜が正解。以下△同玉▲7一金△9一玉▲8一金打の並べ詰めになります。当たり前といえば当たり前でバカみたいな問題に見えますが、実戦でA~Eまでの有力手段がある時は案外逃したりするものです。何故かといいますと、7一の駒が竜ですので非常に切りにくいのです。これが2図のように▲7一との形ならば、間違える可能性もずっと低くなるでしょう。

神谷2

「終盤は駒の損得よりも速度」いつもこの格言を肝に銘じたいものです。将棋は大駒が命ではありません。

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私は1図を見て▲7三竜と思ったのだが、正解を見て愕然。

手段が多くて、そのどれもが心地良く思えるものであった場合、このように間違うことが多いということだ。

アマチュア同士の対局で、あまりにも優勢な方が逆転負けしてしまうことがあるが、やはりこのような積み重ねがあってのことだろう。

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休みの前日の仕事が終わった夕刻、自由に使えるお金が50万円、財布の中に入っている。

「さて、これからどうしよう」

このような時に悪手を指してしまいがちになるのが人生だ。