中村修七段(当時)「後手番二手目の可能性(3)・・・△3二飛編・△4二飛編・△5二飛編」

将棋世界1993年9月号、中村修七段(当時)の16ページ講座「後手番二手目の可能性」より。

『△3二飛』

 角道を止めたままの△3二飛(13図)。これも多少相手を挑発している意味があります。

 なぜかと言えば、このままでは後手△3四歩と突けない(角交換から▲6五角があるため)からです。

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13図以下の指し手

▲2六歩△6二玉▲2五歩△7二玉▲2四歩△同歩▲同飛△3四歩▲6六歩(14図)

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 角道を開けられない後手は8三の地点を守るために王様の移動を急ぎます。

 その間先手は飛車先歩交換をしておきます。大捌きを狙った△3四歩に、▲6六歩と角道を止めた手が落ち着いた好手です。これで次の飛車成が受かりません。以下激しい戦いにでもなれば後手にもチャンスはありますが、思うように捌かせてはもらえません。先手は竜を引き、▲2四歩からゆっくりと確実に負かしにくるでしょう。

 残念ながら2手目△3二飛は成立しません。

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二手目△3二飛戦法が編み出されるのは、これから14年後の2007年のこと。

13図から14図に至るまでの手順では▲2五歩に対して△7二玉としているが、△3二飛戦法では▲2五歩と突かれたタイミングで△3四歩と角道を開ける。

従来は▲2二角成△同銀▲6五角で後手不利とされてきたが、それに対する△7四角の発見により、二手目△3二飛戦法が新たな指し方として脚光を浴びた。

私は二手目△3二飛戦法をやられた場合は、▲7五歩とおとなしく相振り飛車を目指すことにしている。

それにしても、14図の▲6六歩は素晴らしい手だ。

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『4二飛』

 振り飛車の中で一番人気のある四間飛車。今度は角交換になっても▲6五角はなく、△4二飛(15図)は有力に見えます。

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15図以下の指し手

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3二金(16図)

 16図、△3二金で飛車成こそ防ぎましたが、本来の振り飛車とは違う様です。

 通常は△3三角と上がり飛車先歩交換を受け、王様を金銀三枚で囲い持久戦を目指すものです。

 果たして後手の狙いは何なのでしょうか。

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16図以下の指し手

▲2八飛△2三歩▲4八銀△6二玉▲6八玉△7二玉▲7八玉△8二玉▲9六歩△9四歩▲5六歩△7二銀▲5八金右△4五歩▲5七銀△3五歩▲2二角成△同銀▲6六歩△4四飛▲6八銀上△3三桂▲6七銀△2四飛(17図)

 従来の振り飛車感覚にはない革命的な指し方が現れました。アマチュアの間で流行し、プロ棋戦でもよく見かける様になった”立石流”と呼ばれる指し方です。角を交換し、飛車を中段に浮き大捌きを狙います。

 17図はその一例です。

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 飛車交換は後手が良いので、▲2六歩と受ける事になります。これでは飛車先歩交換の得がなくなり先手面白くありません。以下後手方は△3四飛と寄り、2二の銀を5二まで移動させて理想形のでき上がりです。

 互角の戦いが予想されるものの、後手も言い分を通して満足でしょう。

 16図に戻り先手指し手を変え、▲3四飛と横歩を取ってみます。

 一歩損で収まっては後手もつらくなるため、気合の△4五歩。

 以下▲2二角成△同銀▲6五角(18図)は自然な応酬です。

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 普通の受けは△3三銀。ところがこれは▲3二角成△同飛▲4三金と強襲されて気持ち悪い。そこで△4三角と合わせます。これは落ち着いた受けです。

 以下▲4三同角成△同金▲3六飛△1四角▲3一角△3六角▲4二角成△同金▲3六歩△5五角▲6五角△3二歩(参考図)にて後手良しです。

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 また、18図▲6五角のところ、いきなり▲3二飛成△同飛▲4三角も有力に見えますが、やはり△1四角と攻防に打たれて攻め切れません。

 結局、横歩を取る手も乱戦に誘導するだけで、先手有利までには至らないと思います。

 2手目△4二飛は十分に成立しています。そして双方に工夫の余地も数多く残されているのです。

 例えば早めに△3五歩を突くとか、角道を開けたまま△3三角と上がるなど。

 ”立石流”に続くオリジナル戦法を皆様もどうぞお試し下さい。

(つづく)

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二手目△4二飛。

現在は角交換振り飛車が開発されているので、△4四歩を突かない指し方がメジャー。

しかし、ここで紹介されている△4四歩を突く指し方でも後手が指せるのだから奥が深い。

立石流は、アマ強豪の立石勝巳さんが考案した戦法で、2004年の将棋大賞升田幸三賞特別賞を受賞している。

▲3四飛と横歩を取ったときの変化も受け方の勉強になる。

15図と16図の間、飛車先交換には行かないのが堅実と言えそうだ。

四間飛車は振り飛車の中でも最も安定感のある戦法だが、二手目△4二飛の安定感も素晴らしいものがある。

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『△5二飛』

 今期NHK杯、(先)佐藤秀司四段-神吉宏充五段戦、2手目に△5二飛と神吉五段らしいパフォーマンスを見せてくれました。

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19図以下の指し手

▲2六歩△6二玉▲2五歩△7二玉▲2四歩△同歩▲同飛△3四歩(20図)

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 前に説明した△3二飛同様、▲6五角があるためすぐには△3四歩と突けません。20図。先の2手目△3二飛の時は、▲6六歩と角道を止めて先手良しでした。今度は▲6六歩に△3二金と上がれます。以下▲3四飛と横歩を取られても△3三角▲3六飛△4四角(21図)と進めば一歩損でも飛車を攻める手が利き、後手も戦えます。次に△3三金から△2二飛が実現すれば、むしろ後手のペースとも思えます。

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 20図で角道を止める手は面白くないと分かりました。とすれば指したい手は一つです。

20図以下の指し手

▲2三飛成△8八角成▲同銀△2二飛▲2四歩▲3二金△3四流(22図)

 当然の飛車成に対し、角交換から△2二飛もこの一手です。飛車交換はつまらないと見て▲2四歩と頑張ります。

 ここで△2三飛▲同歩成△2七飛は▲2四飛と合わされて困ります。この変化は、と金の分先手有利です。

 △3二金▲3四竜と進み22図。

 このまま収まっては後手不利になります。勝負手は。

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22図以下の指し手

△1二角▲2三角△同角▲同歩成△同飛▲同竜△同金▲4一飛△2二角▲4五角(23図)

 後手期待の端角に、竜を逃げると△6七角成があります。

 ▲2三角の打ち込みに△同金なら▲3一竜で先手優勢。

 △2三飛と進んだ時に、あっさり飛車と竜を交換します。これを竜を大事にと▲2四歩の押さえは、飛車を引かれた後、いずれ2四歩を守り切れず、歩切れの先手は困ります。

 ▲4一飛に△5一飛と合わせても以下▲4三飛成△3四角▲同竜△同金▲4三角△2四飛▲1五角にて先手指せます。

 23図の▲4五角が決め手になりました。

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 金取りを受けても▲6三角成△同玉▲6一飛成以下先手必勝形と言えるでしょう。22図で有力に見える△1二角は残念ながら成立しません。

 代わる手とすれば△3三角▲7七角△4二銀などでしょうか。22図は他にも何かありそうな局面です。

『△5四歩』

(中略)

『△3二金』

(中略)

(つづく)

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二手目△5四歩も△5二飛も、ゴキゲン中飛車の登場で全く不自然ではない二手目となっている。

本当に歴史の進化を感じさせられる。