久保利明四段(当時)の棒銀に対する絶妙の捌き

将棋世界1995年6月号、日浦市郎六段(当時)の「今月の眼 関東」より。(3図以下は追記)

 今月の眼は「四間飛車」対「居飛車棒銀」の戦いを見ていただきましょう。一時期は居飛車穴熊一色だったのですが、最近また急戦が脚光を浴びてきています。

 勝ち抜き戦、加藤一二三九段-久保利明四段戦から。

久保加藤1

図以下の指し手
△4五歩▲3三角成△同飛▲4五歩△3五歩▲4八飛△3四銀▲2二角△6三飛▲4四角成△4三金▲2二馬(2図)

 1図から△4五歩と突いた手は、△6五歩と突いたときからの狙いの一手です。角交換からいつでも△6四角と打つ狙いがあります。

 居飛車側が急戦できたときに、6四へ角を打つ(あるいは出る)狙いを見せるのが振り飛車側の常套手段。振り飛車側は6筋の歩を突かないでおくか、図のように6五まで伸ばしておくのが反撃の味を含んだ指し方です。1図では4二から6四へ角を転換する指し方もありますが、新鋭久保四段は激しく行きました。

 角交換から加藤九段は▲4五歩ですが、ここは▲3四歩と取り込んで①△同飛は▲3五銀、②△同銀は▲8八角と攻める手もありました。2図へと進んで、ここから久保四段がうまく捌きます。

久保加藤2

2図以下の指し手
△4七歩▲同金△3三桂(3図)

 2図から△4七歩が好手。▲同飛は△3八角と打たれますから、先手は金で取るよりありません。▲4七同金と取らせて△3三桂。

久保加藤3

 3図以下の指し手
▲4六金△4五桂(4図)

 先手は桂跳ねを防いで▲4六金と上がりましたが、それでも△4五桂と跳ねる手が成立。

久保加藤4

4図以下の指し手
▲同金△5九角(5図)

 ▲同金に△5九角と技が決まりました。棒銀に出た2六の銀ですが、いないほうがいい駒になっています。

久保加藤5

5図以下の指し手
▲2八飛△4五銀▲5八金(6図)

 先手は仕方なしに金を見捨て、▲5八金と角を殺して勝負に出ますが、

久保加藤6

6図以下の指し手
△3八金(7図)

 △3八金が一見重たく見えるものの好手。

久保加藤7

7図以下の指し手
▲同飛△2六角成(8図)

 角を生還させて優勢を確保しました。久保四段の捌きがうまくいった一局です。

久保加藤8

——–

△6五歩が間接的に活きている対棒銀戦。

△3八金(7図)のような重い手も、▲5九金△2八金となったとしても2六に銀が取り残されているので、成立する。

△3八金に▲2七飛なら△3六銀があって、もっと大変なことになる。

駒割りは銀桂交換だが、振り飛車が非常に捌けている形。

振り飛車の醍醐味が凝縮された手順だ。