行方尚史六段(当時)「なんだか余計ひどくなっちゃったっす」

将棋世界2001年9月号、椎名龍一さんの第20回早指し新鋭戦決勝〔深浦康市六段-行方尚史六段〕観戦記「胸を打った投了シーン」より。

「決勝戦の観戦記を書く」という立場からすると、主役は優勝した深浦でなければならない。一歩譲っても両対局者を五分に見て、傍観者としての立場を貫かねばならないところであろう。

 ところが僕はその王道を踏み外し、今回はどうも行方を中心とした観戦記を書いてしまいそうなのだ。これが混乱と悩みを引き起こしている原因なのだが、この日の行方があまりにもオモシロかったので、とりあえずその路線で書いてしまおうと心に決めた。決めたのだ。

 まず、控え室に現れた行方を見て「ハッ」としてしまった。日頃愛用しているコンタクトレンズではなく、ラグビーボールを二つ並べたような、鼈甲色のフレームの眼鏡を着用してきたからだ。

 パッと見た目には縄文時代に作られた土偶のような雰囲気なのである。

 この眼鏡着用には訳があった。実はこの対局の前々日に、行方は「暑苦しい」という理由により髪の毛を自分でカットする、という冒険に出ていたのだが、右と左の長さを揃えているうちにいつの間にやら短く切り過ぎてしまったのだそうだ。しかもガタガタに…。このヘアースタイルでのテレビ出演はまずいと思い、対局日の午前中に床屋へ駆け込んで整髪してもらったそうなのだが、「それが新入りの人に当たっちゃったみたいで、なんだか余計ひどくなっちゃったっす」と行方。派手な眼鏡は髪型に視聴者の目を向けさせないためのカムフラージュというわけである。

 深浦はいつも掛けているフレームレスの落ち着いた雰囲気の眼鏡。行方の眼鏡を「サイケな前衛ミュージシャン風」とすれば、深浦の眼鏡は「オーケストラのバイオリニスト風」という感じでとても対照的だ。その眼鏡のレンズを対局開始10分前にティッシュペーパーで念入りに磨き、気合いを入れた深浦だった。

(以下略)

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将棋世界のこの号のグラビアに、行方尚史六段(当時)の当日の写真が載っている。

中野伴水さん撮影の写真の一部

たしかに、行方六段には見えない。

メガネの影響がかなり大きいのではないかと思う。

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髪型が大きく変わっているけれども、それ以外は変わっていないケースも見てみたい。

この写真は、1989年の週刊将棋に載ったもの。

この時の羽生善治三冠は、何かの理由でスポーツ刈りにしたあと髪の毛が伸びた状態。

髪の毛は著しくイメージと違うが、どう見ても羽生三冠の若い頃だ。

こうやって考えると、変装をするなら、髪型を変えるよりもメガネに工夫を凝らした方が効果的、という結論が導き出されるように思える。