佐藤康光六段(当時)「そろそろ気持ちを引き締めねば、と思っていますが順位戦で昇級するという事はこういう状態になるのかな、とも思っている今日です」

将棋世界1993年5月号、佐藤康光六段(当時)の「昇級者(C級1組→B級2組)喜びの声」より。

将棋世界同じ号より。

本物の余裕を

 私は四段に昇段する時は4番連続昇段の一番(今のように三段リーグの制度がなかった)、C2からC1に昇級した時は6番手からのキャンセル待ちの昇級、という事で今回の昇級は初めて自力で勝ち取ったという感じが強く一番うれしく感じています(といっても最後は2番連続でしたが)。

 上がってから既に1ヵ月以上が経っているのですが未だにネジがゆるんでいる状態です。

 そろそろ気持ちを引き締めねば、と思っていますが順位戦で昇級するという事はこういう状態になるのかな、とも思っている今日です。

 今期でC1は4期目でした。開幕前に某紙に「佐藤康は逆転勝ちが増えれば有望」と書かれてあったが、正にその通りでそれがとても大きかった様です。

 2戦目、坪内七段との苦しい一局を逆転勝ちして迎えた3局目の伊藤(果)六段戦。作戦負けの将棋から二転三転して図の局面を迎えました。

 飛車を逃げるのが普通ですが▲7七桂が気になりました。

 残り時間も切迫してきて、読んでいてどちらが勝ちなのか、全く分からないまま△5七歩成▲同銀△同飛成を決断しました。

 今考えるとよく決断できたと思います。

 以下、10数手進んでみるとはっきり自分の勝ちになっているのが分かりました。

 この将棋を勝てて少しではあるが今期はやれそうだという感触をつかむ事ができました。

 以後も苦しい将棋が多かったが、乗り切る事ができました。

 そして9戦目、小野(敦)五段戦が昇級を決める一局でしたが、自分らしく指せた一局です。

 最終戦、佐藤(大)九段との一戦は大五郎先生が病気のため不戦勝。もし、9戦目を負けていたらどうなっていたのでしょう。ともかくホッとしています。

 先月号の本誌で「余裕の昇級」と書かれてありましたが、内容を見れば分かる通り余裕などとてもない状態。

 もしそう見えるのであれば偽りのものでしょう。

 そんなものは欲しくない。これからさらに精進し、早く「本物」の余裕を見せられる様に頑張っていきたいと思います。

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「上がってから既に1ヵ月以上が経っているのですが未だにネジがゆるんでいる状態です。そろそろ気持ちを引き締めねば、と思っていますが順位戦で昇級するという事はこういう状態になるのかな、とも思っている今日です」

佐藤康光六段(当時)が昇級を決めたのが1993年2月2日。

昇級の喜びが本当に伝わってくる。

受験で合格した時なども、まさにこのような感じになる。

逆に、この時期に受験不合格、失恋などをすると、春に向けての季節の雰囲気が辛さを増幅させてしまうものだ。

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「最終戦、佐藤(大)九段との一戦は大五郎先生が病気のため不戦勝。もし、9戦目を負けていたらどうなっていたのでしょう。ともかくホッとしています」

もし、佐藤康光六段が9戦目を負けていたら、9戦目が終わった段階で次のようになっていた。

泉正樹六段(5位)8勝1敗
佐藤康光六段(6位)8勝1敗
西村一義八段(1位)7勝2敗

最終戦、不戦勝で昇級が決まることになるが、それでは味が悪いというだろう。

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「そんなものは欲しくない」が、非常に格好いい。