近代将棋1996年1月号、「子年の棋士パレード」より、深浦康市五段(当時)の「『自分の将棋』を」より。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
今年で24歳。つい最近まで小学生だった様が気がするだけに、本当に月日の経つのは早いものだと実感させられます。
棋士生活も遂に5年目に突入しました。5年経っても同じクラスにいるのは不甲斐無い限りですが、何回でも挑戦するつもりでいます。兄弟子の森下八段は”準優勝男”とかつて言われたことがありました。順位戦のC2も5年目で昇級された様に記憶しています。それでも決勝で敗れる度に、”今度は必ず優勝できる”と思われたそうです。その精神力の強さが、去年の名人挑戦につながったのでしょう。これは大いに見習うべきです。
しかし去年の私は負け過ぎました。それも大事な所で負けてしまうのが、とても気がかりな点です。春の全日プロ決勝、9月の王座戦挑戦者決定戦、10月の新人王戦決勝。この他にも順位戦で敗退など数えるとキリがありません。
兄弟子はどの様な気持ちで耐えていたのでしょうか。メンタルな部分を鍛え直すのが、今年の抱負でもあります。
最近将棋界では結婚ラッシュが続いています。羽生、塚田と続いた時はさほどでもなかったのですが、藤井六段が婚約したと聞いた時は、ああそういう年代になったのだな、と思わされました。24歳というのはそういうことを考える歳なのでしょうか。
もし次に”干支の棋士まつり”の依頼を受けた時にはもう36歳。
結婚はしているでしょう。2児の父親で子供は小学生……、と考えると自分が自分で無くなるような気がして、ちょっと怖い気もします。
それだけに、”今”を大切にして行きたいと思います。現段階の自分の将棋は試行錯誤のときで、どんな戦法、棋風が合っているのかがよくわかりません。これは現在の棋士にも自分にも言えることですが、何かこう型にはまり過ぎているような気がします。その中で、自分の将棋というものをしっかりと確立して行きたいと思っています。
ゼニの取れる将棋、とはちょっと聞こえが悪いのですが、これが最高のプロフェッショナルだと信じています。一歩でもこれに近づける様に頑張ります。
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「兄弟子はどの様な気持ちで耐えていたのでしょうか。メンタルな部分を鍛え直すのが、今年の抱負でもあります」
兄弟子の森下卓八段(当時)の精神力の強さを見習いたいという深浦康市五段(当時)。
深浦五段はこの翌々期にC級1組への昇級を決めるが、その時に森下八段は「そんな地獄の戦いのなかで、深浦君は本当によく頑張ったと思う」と大絶賛している。
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「もし次に”干支の棋士まつり”の依頼を受けた時にはもう36歳。結婚はしているでしょう。2児の父親で子供は小学生……、と考えると自分が自分で無くなるような気がして、ちょっと怖い気もします」
この12年後、深浦五段は王位となっており、A級にも復帰している。
その年の近代将棋では、”干支の棋士まつり”の欄はなく、その年の5月に休刊してしまう…
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「最近将棋界では結婚ラッシュが続いています。羽生、塚田と続いた時はさほどでもなかったのですが、藤井六段が婚約したと聞いた時は、ああそういう年代になったのだな、と思わされました。24歳というのはそういうことを考える歳なのでしょうか」
この文章を書いた1~2ヵ月後、深浦五段は奥様と巡り合い、そしてこの年の9月には結婚をしている。
病気をして病院へ行ったのが出会いのきっかけだったが、総合的な意味での有言実行を果たしている。
→深浦康市五段(当時)の結婚式での森下卓八段(当時)のスピーチ