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村山聖五段(当時)の振り飛車講座(5)

将棋マガジン1991年12月号、村山聖五段(当時)の連載講座「ダイナミック振り飛車戦法」より。

近代将棋1991年12月号より。

 どうも僕は音楽大好き人間らしく、朝起きるとミュージック、寝る前にもミュージックという感じです。

 なんでも聞きますが、ポップス系やバラードの物が一番多い様です。

 難点はCDを買って帰ると毎日何回も同じCDを繰り返して聞き、あきたら1年に1回位しか聞かなくなってしまう事です。

 今回も後手番での四間飛車で行こうと思っていたのですが、余り良い題材を思い付かないので、先手振り飛車を考えてみたいと思います。

初手からの指し手
▲7六歩△8四歩▲5六歩(基本A図)

 この様に3手目に▲5六歩と突く手が珍しい一手です。

 普通序盤は、▲7六歩か▲2六歩と大駒の活用を図るのですが、この場合だけ、ちがいます。

 考え方として、先手番の得を生かして5筋の位を取ってしまうという考え方です。

基本A図からの指し手①

△3四歩▲5五歩△6二銀▲5八飛△4二玉▲4八玉△3二玉▲3八玉△4二銀▲2八玉(1図)

  

 大体1図の様になります。

 先手は▲5八飛と中飛車にして、中央の位を守ります。

 この後先手は▲5六銀、あるいは金とさらに位に厚みを加えます。

 5筋を押さえることによって、後手の駒組みにブレーキを掛けるのが狙いです。

 この後、後手がどう動くかで局面がハッキリします。

 一応、1図は互角です。

 それでは次に、後手が△5四歩と受けて位取りを嫌う順を調べてみましょう。

基本A図以下の指し手②

基本A図以下の指し手
△5四歩▲5八飛△6二銀▲5五歩△同歩▲同角△4二玉▲7七角△3二玉▲4八玉(2図)

 △5四歩には▲5八飛と回り、△6二銀に▲5五歩と一歩交換します。次に▲3三角成の一発があるので、後手は△4二玉の一手です。

 先手は▲7七角と引きます。

 以下、△3二玉▲4八玉と互いに玉を動かします。 

 2図は、まだまだこれからの勝負です。

 後手の作戦は何通りかあるので先手は玉をしっかり囲って、後手の態度を見るのが正解でしょう。

基本A図以下の指し手③

基本A図以下の指し手
△8五歩▲7七角△5四歩▲8八飛△6二銀▲6八銀△3四歩▲4八玉(3図)

 後手が△8五歩と飛車先を伸ばす手もあります。

 そして△5四歩と受ければ先程の順より一手得になります。

 これに、先手は▲8八飛と、向かい飛車にします。

 以下、△6二銀には▲6八銀と進め、△3四歩にも角道を止めず▲4八玉と上がります。  

 3図は互角と言えます。

 理由は△8五歩を入れ一手得をしたように見えますが、△4二玉と上がりづらいのがマイナス点。上がると▲8六歩の反攻が見えているからです。

 3図以下、後手の進め方としては△4二玉と上がるのは▲8六歩と突かれるので、それを防ぎ△6四歩と指すのが自然な指し方でしょう。

 対して先手も▲6六歩と止めます。これで一局です。

 今後、先手は穴熊に囲うのが有力な指し方です。

 これで▲7六歩△8四歩▲5六歩の研究を終わります。

 次は先手石田流を知らべてみましょう。

初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲7五歩(基本B図)

 いきなり▲7五歩と位を取るのが珍しい一手です。

 単に▲7八飛だと△8八角成から△4五角と打たれて困ります。

基本B図以下の指し手
△8四歩▲7八飛△8五歩▲4八玉△6二銀▲3八玉△4二玉(1図)

 まず、後手が自然に△8四歩~△8五歩と飛車先を伸ばす順を解説したいと思います。

 ▲7八飛に△8八角成▲同銀△4五角は▲7六角で受かります。

 角の成り合いは先手の馬の位置が良く優勢です。

 ▲4八玉に△8六歩は、以下▲同歩△同飛▲7四歩△同歩▲2二角成△同銀▲9五角と、目から火の出る王手飛車を掛けて必勝となります。

 △6二銀に▲7四歩は△7二金としっかり受けられて損です。

1図以下の指し手
▲7六飛△8八角成▲同銀△2二銀▲7八金△3二玉▲2八玉△3三銀▲3八銀(2図)

 1図で▲7六飛と浮くのが良い手です。

 これに対して△3二玉と寄るのは、▲3六飛とされ、少し危険です。

 △8八角成から△2二銀が一番緩やかな指し手です。

 そこで▲7八金と上がり、後で▲7七銀から▲6六銀と指す順を作ります。

 後手は△3二玉から△3三銀と囲いを完成させます。

 先手も▲2八玉から▲3八銀とミノ囲いを作ります。

 2図は互角です。

 後手は△6四歩から△6三銀、先手は▲7七銀~▲6六銀から▲5五銀の進展です。

 基本B図で△8四歩から△8五歩ではなく△4二玉、あるいは△5四歩と指す手があります。

 その場合は飛車を回る前に▲6六歩と角道を止めてから石田流にします。

 ▲7八飛と回ると△8八角成から△4五角と打たれ、▲7六角と打ち返せないからです。

 また▲7五歩に△4四歩と角道を止められると相振り飛車になります。

 どの変化も一局です。

 振り飛車といっても、ちょっと変わっているのがこの戦法です。

初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角(基本C図)

 振り飛車が嫌だからという理由で先手が▲2二角成とする手はよく見掛けるのですが、振り飛車にするたえというのが珍しい所です。

 まず▲4五角と一歩取りに行きます。

基本C図以下の指し手
△6二銀▲3四角△3二金▲6六歩△3三銀▲7八角△8四歩▲8八銀△8五歩(1図)

 ▲4五角に対して△6二銀と上がります。

 そして▲3四角に△3二金と▲4三角成を受けます。

 ここで▲5六角と引き▲4六歩から右の方へ角を引き▲8八飛とした実戦例もありますが、本稿は左の方へ引く順を解説したいと思います。

 ▲6六歩に△3三銀と角の行き場所をきかれました。

 先手は▲7八角と引きます。

 ▲7八角の時点では、先手は居飛車か振り飛車かを見せてません。ダイナミックなのに、覆面をかぶっているのはおかしいですね。

 後手は△8四歩から△8五歩と飛車先を伸ばして正体をあばきにきます。

1図以下の指し手
▲7七銀△4一玉▲6八飛△3一玉▲4八玉△4四歩▲3八玉△5四歩▲5八金左(2図)

 △8六歩と交換されてはいけないので、▲7七銀はこの一手です。

 ここで△6四歩から△6三銀~△5四銀と腰掛け銀にする手もありますが、手厚い指し方の△5四歩から△5三銀の手順を解説します。

 △4一玉に▲6八飛と回り△3一玉に▲4八玉と先手も玉を囲います。

 △4四歩から△5四歩に、ひたすら玉を囲います。

2図以下の指し手
△5三銀▲2八玉△5五歩▲3八銀△7四歩(3図)

 後手は△5三銀と出て、色々含みを持たせます。

 先手の▲2八玉に、後手は△5五歩と位を取ってきました。

 先手は、あくまで早い囲いに専念し、▲3八銀とミノ囲いを作ります。

 さすがに▲1八香とする手は間に合いそうもありません。

 △7四歩で3図です。

 先手はこれから▲4六歩~▲3六歩~▲4七金と高ミノに組み、機会があれば銀冠に組み上げるという感じです。

 どの戦型もそうですが、先手番だといっても相手の態度を見てから自分の態度を決めるのが振り飛車のコツです。

 ですから手番に関係なく自然に指す方が良いのかも知れません。

 これで講座は終わりです。

 

 今回が最後の講座です。

 最初に書いていた時より大分慣れてきたのに、残念です。

 半面、気軽にもなりました。

 普通の人はサラサラと書けるのかも知れませんが、僕は結構苦労しました。

 でも二度と、こういう機会がないかもしれないと思うと、面白かった様に思います。

 それではまた会いましょう。

* * * * *

当時で言えば、アマチュア好みの力戦型振り飛車のオリエンテーションのような流れ。

非常に親切な解説だ。

それぞれの戦法の解説を、それぞれもう少しずつ踏み込むと、元々が力戦型なのでグチャグチャになってしまうわけで、絶妙なバランスが保たれていると言えるだろう。

この時代は、ゴキゲン中飛車も藤井システムも升田式石田流2図から▲7七銀~▲8六歩の仕掛けもまだなかった頃。

* * * * *

「難点はCDを買って帰ると毎日何回も同じCDを繰り返して聞き、あきたら1年に1回位しか聞かなくなってしまう事です」

普通は、同じ曲を何回も何回も聴くと、食傷気味になったその後は、3年から5年に1度でいいやとなるものだが、1年に1度聴く村山聖五段(当時)はとても優しい。

* * * * *

「それではまた会いましょう」

村山聖九段が亡くなるのはこの7年後。7年後のことを思うと、この言葉がとても切なく感じられる。

 

村山聖五段(当時)の振り飛車講座(4)

将棋マガジン1991年11月号、村山聖五段(当時)の連載講座「ダイナミック振り飛車戦法」より。

将棋マガジン同じ号より。

 昔、私は努力をしていれば必ず夢は叶うと思っていました。

 しかし月日は流れ、この世には、どんなに思いを寄せても実らない事があると分かりました。

 しかし努力をしない限り永遠に辿り着く事はないのです。

 彼はいつも言ってました。

”大いなる思いは99%の努力と1%の運によって叶うと”

 今回は位取りを中心に講座を進めます。

初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲5八金右△8二玉▲9六歩△9四歩▲6八銀△5二金左▲5七銀右(基本図)

 位取りの戦型では、振り飛車の玉の囲いは美濃囲いか穴熊、居飛車は舟囲いです。

 ▲5七銀右と上った手で先手の作戦が位取りである事が大体決まりました。

基本図以下の指し手①

△4三銀▲7七銀△4五歩▲7五歩△6四歩▲7六銀△4四銀(1図)

 △4三銀に先手は▲7七銀と上がりました。

 これで居飛車の作戦は玉頭位取りに決まりました。

 ここで△3二飛と寄り△3五歩から石田流に組む手も有力です。

 しかし、今回は△4五歩と突く手を調べてみましょう。

 △4五歩に先手は▲7五歩と位を取ってきます。

 そして△6四歩と突いた手に▲7六銀と立ってきます。

 ここで△8八角成▲同玉△5四角と打っても▲7七玉で大した事はありません。

 後手は△4四銀と角交換を拒否します。

1図以下の指し手
▲6六歩△6三金▲6七金△5四歩▲4八飛△7二銀(2図)

 ▲6六歩と、6筋の歩を交換する手を見せながら▲6七金と上がる手を作ってきます。

 対して後手は△6三金と上がって歩交換に備えます。

 先手は▲6七金と上がりました。

 後手は△5四歩と突きます。

 次に△5五歩▲同歩△同銀▲5六歩△4六歩と指す順が実現すれば優勢になります。

 ▲4八飛と穏やかに受けました。

 ここで△9二香と上がり穴熊にする手もあるのですが、△9四歩▲9六歩の交換をしているので若干上がりにくい感じです。

 一手で囲いが完成するし、美濃囲いは堅い囲いですので△7二銀で充分です。

2図以下の指し手
▲8六歩△5五歩▲同歩△同銀▲7七角△5四金▲8五歩(3図)

 ▲8六歩で▲7七角と上がる手も考えられます。

 この場合は△8四歩と突き△8三銀から△7二金と銀冠に組み上げます。銀冠は堅い囲いで、対位取りには優秀とされています。

 その順を嫌って先手は▲8六歩と突いたのです。

 後手は△5五歩▲同歩△同銀と一歩交換に出ます。

 ここで▲5六歩と打って簡単に局面は収まる様に見えますが、後手には△同銀と強く取ってくる手があります。以下▲同銀に△5五歩(変化A図)と打つ狙いです。

 変化A図の局面は後手銀損でも、先手の銀も死んでいるので大して損ではありません。

 問題はここで先手に良い手があるかどうかですが、一見した所、なさそうに思います。

 変化A図からの仮想手順で▲5五同銀△同角▲5六歩△4六歩▲同歩△同飛、の様になれば後手優勢です。

 さて本譜、先手は▲7七角と上がって先の順を回避します。

 それに対して△5四金(5六歩は指し過ぎ)と圧力を加えます。

 ここで先手は▲8八玉とは寄りにくい(間接的に後手角筋に入るのと離れ駒が生ずるので)、▲6八金直は△5九銀の傷が残る、という事で▲8五歩と手待ちをします。

 3図でどう指すか、△1二香と待つか、△6五歩▲同歩△5六歩と攻めるか、△6二飛と回るか、他にも手はあります。

 とにかく戦いの主導権は振り飛車が持っています。

 3図は振り飛車有望だと思います。

基本図以下の指し手②

基本図以下の指し手
△4三銀▲5五歩△7二銀▲5六銀△6四歩▲3六歩△7四歩(4図)

 今度は5筋の位を取った順を解説したいと思います。

 振り飛車の方としては居飛車の手を見て態度を決めなくてはいけません。

 先手が▲3六歩と突いた事により急戦の気配が強くなりました。

4図以下の指し手
▲4六歩△4一飛▲1六歩△5一角▲3七桂△1二香(5図)

 先手は▲4六歩と突いてきました。

 ここで△4一飛と引くのが良い手です。

 続く▲1六歩に△5一角と引くのが好手で、▲3七桂と桂を活用した時に△1二香と角筋を避けるのも振り飛車の常套手段です。

 この形が5筋位取りに対しての振り飛車の基本形でもあるのです。

 5図はこれからの将棋ですが、玉の堅さ、駒の効率などを考えると少し振り飛車の方を持ちたい気がします。

 5図以下は▲4五歩△同歩▲同銀ぐらいの進行だと思います。

 同じ5筋位取りでも▲3六歩と突かずに▲6六歩と穏やかに駒組みをする順があります。

基本図以下の指し手③

基本図以下の指し手
△4三銀▲5五歩△7二銀▲5六銀△6四歩△4三銀▲5五歩△7二銀▲5六銀△6四歩▲6六歩△6三金▲6五歩(6図) 

 5筋位取りは、この形が一番多い様な気がします。

 ▲6六歩から▲6五歩と先手は一歩交換します。

 これにより先手は一歩持つ事と、▲6七金とさらに陣形を手厚くする狙いがあります。

6図以下の指し手
△6二飛▲5七銀△4五歩▲6六銀△5四歩▲6四歩(7図)

 6図で△6二飛と回るのが好手です。

 なぜかと言いますと振り飛車の方は、ほとんど完成された陣形に対して居飛車の方はまだまだ指したい手があります。

 ですので、今戦いを起こさなければ、だんだん居飛車の陣形が良くなっていってしまうからです。

 ▲5七銀に△4五歩と角道を開けて、▲6六銀と力を加えた時に、△5四歩と4三銀を働かせようとします。

 △5四歩を▲同歩は△同銀、あるいは△6五歩から△5四金、どちらでも振り飛車ペースです。

7図以下の指し手
△同金▲6五歩△5五歩▲6四歩△5六歩(8図)

 7図から△6四同金▲6五歩と進みます。

 ここで△5五金は▲同銀直△同歩▲5三金で悪そうです。

 △5五歩と取るのがうまい取り方です。以下、▲6四歩△5六歩と進みます。

 ここで▲5三金は△6四飛▲4三金△6六角があります。  

 8図では恐らく▲6七金ぐらいですが、△6五歩と攻めても、△6四飛と穏やかに指しても、どちらでも後手優勢です。

基本図以下の指し手④

基本図以下の指し手
△4三銀▲5五歩△7二銀▲5六銀△3二飛▲6六歩△3五歩▲1六歩△4二角(参考B図)

 △3二飛と回って石田流に組む手も実戦例の多い指し方です。

 △3二飛に対して▲3六歩と突く手は△5一角と引き▲3八飛という展開になります。

 ▲6六歩と突けば△3五歩▲1六歩△4二角で参考B図の局面になります。 

 参考B図からは▲2六飛と浮き△6四歩と歩を突いて一局の将棋だと思います。

 ただ、僕はどちらかというと後手の方を持ちたいです。

 今回の講座はこれで終わりです。

 早いもので今回が4回目の講座です。

 いつも順位戦と重なって原稿を出すのが遅いので、編集部の方々に迷惑をかけています。

 次こそは早めにと、いつも思うのですが……。

 それではまた来月会いましょう。

* * * * *

村山聖五段(当時)の連載講座「ダイナミック振り飛車戦法」は、将棋マガジン1991年8月号から12月号まで、5回に渡って連載された。

村山聖九段執筆の講座は、知る限りはこの講座だけであり、非常に貴重なものだと思う。

この講座を書くことになったきっかけは、師匠の森信雄五段(当時)からの「これは命令や」の言葉。

この辺の経緯や、なぜ居飛車党の村山五段が振り飛車の講座をやることになったか、などについては、次の記事に詳しい。

村山聖五段(当時)の振り飛車講座(1)

* * * * *

連載2回目と3回目は次の通り。

村山聖五段(当時)の振り飛車講座(2)

村山聖五段(当時)の振り飛車講座(3)

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「村山聖五段(当時)の振り飛車講座(3)」のブログ記事が2015年12月。

(3)と今日の(4)の間に、なぜ4年以上の歳月が流れたかというと、以下の理由がある。

  1. 原稿の仕事が入ると、原稿の締切り日までの間のブログ記事を事前に日数分書きだめしている。
  2. ところがこの時は、(1)~(3)に取りかかったものの、時間に余裕がなく、(4)(5)とも打ち込む文字数等が多かったため、別の短い文字数の記事を書きだめすることに注力した。
  3. 原稿を入稿した後も、少しボーッとしていたかったので、ブログは短めの記事が多かった。(4)(5)は、もう少し落ち着いてからにしよう。
  4. と思っている間に、4年以上経った。

という次第。

その間に、映画『聖の青春』が2016年に上映され、さらに個人的には2016年、2017年、2018年と、5月に開催されている「森一門祝賀会」にも参加している。

4年という月日はあっという間なのか、あるいは私がズボラなのか、どちらにしても、晴れて(4)を紹介することができた。

明日は、もちろん(5)。

 

「将棋は一手負けだろうと、大差負けだろうと、王様を素抜かれようと、すべて負け、つまり相手に負けるということは、ひょっとしたらオレはこいつより劣っているのではないだろうか。頭の片隅に疑念が浮かび、あなたのプライドが即座にそれを否定しにかかりますが……」

なかなか攻撃的な講座。

近代将棋1991年1月号、小野修一七段(当時)の「仕掛けのタイミング」より。

 さてさっそくですが、あなたが世の中で一番口惜しいことは何でしょう。人によって千差万別、もしサラリーマンなら上役に威張られるとか、同僚に出世の先を越されるとか、女の子に相手にされないとか色々とあるでしょう。これらのことは大変口惜しい。本当によくわかります。

 しかし私が思うに、将棋を趣味と自認するあなたが、自分より頭の悪い相手(あなたがそう思っているだけかもしれませんが)に将棋を負けたときの悔しさたるやこれら以上に筆舌に尽くしがたいものがあるはずです。

 もしこれが碁だったら、作って2、3目負けていてもそこはアマ同士「チェ、ついてないな」で終わります。碁の方が勝負という観点から柔らかいものがあるようです。会社の同僚に先を越されても「世渡りのうまい奴にはかなわないよ」と酒場でグチを言えばよいし、女の子に振られても「A型とB型では相性がいまいちなんだよな」と血液型に責任をなすりつけることができます。

 ところが将棋は一手負けだろうと、大差負けだろうと、王様を素抜かれようと、すべて負け、つまり相手に負けるということは、ひょっとしたらオレはこいつより劣っているのではないだろうか。頭の片隅に疑念が浮かび、あなたのプライドが即座にそれを否定しにかかりますが、そんなときに相手が、「将棋は頭の勝負なんだよな」と言外にちらつかせたりするともう大変、こいつだけは絶対に許せないと頭が沸騰して、次の日少し冷静になった所で、本屋の棋書コーナでページをめくっている自分を発見します。

「一日で初段になる法」「ライバルに鉄槌を下す」「将棋が強いと女にもてる」刺激的な題名にひかれて一冊買ってみる。しかし3日もたつと飽きてしまい本棚行き、またライバルに負ける。そうすると自分の不勉強を棚に上げ、「暇な奴にはかなわないよな」と嫌味の一つも言ってみるが、何かむなしい。

 おわかり頂けましたでしょうか。あなたにとってほんの遊びの将棋でも、勝者と敗者ではこれだけの内面の葛藤の差があるのです。勝った相手が「いやまぐれですよ」などと言っても信じてはいけません。内心ではあなたのことを頭の悪い奴だと思っているに違いないのです。

 たかが将棋ぐらいではと思ってはいけません。ひとたび盤に向かえばプロであろうとアマであろうと、初級者であろうと老若男女真剣勝負なのです。金が賭かっていなくても、あなたのプライドが賭かっているのです。自分のプライドが不当な扱いを受けぬよう将棋は勝たねばしょうがないとあなたが悟りを開いた時、またこの講座を読んでライバルに勝った暁には、「将棋は頭の差が出るねぇ」と一言いってやりましょう。

(以下略)

* * * * *

「将棋は頭の差が出るねぇ」は、相手が気心の知れた友人であっても言わないほうが良いと思うが、たしかに、将棋に負けた時は、全ての責任は自分にあって、相手が悪いわけではない。

とにかく、何かのせいにするということができない。

負けた時の悔しさは、人それぞれ、強弱に個人差はあるけれども、自分で受け止めるしかない。

* * * * *

「つまり相手に負けるということは、ひょっとしたらオレはこいつより劣っているのではないだろうか。頭の片隅に疑念が浮かび、あなたのプライドが即座にそれを否定しにかかりますが」

そこまでは思わないが、ネット将棋でこちらが後手で、▲7六歩△3四歩▲2二角不成のように、序盤早々に角不成で来るようなマナーの悪い相手に対して負けた時は、かなりアツくなる。

というか、▲2二角不成とされた時点からムッとなっているわけで、相手の顔が見えるのならまた違うのだろうが(もっとも、対面での対局なら、▲2二角不成などやってこないだろう)、このようなことに感情を動かされないよう、まだまだ私には修行が必要なようだ。

 

中村修七段(当時)の非常に説得力がある講座

非常に説得力があるとともに、心がけることができれば勝率アップは間違いないかもしれない、と思える講座。

将棋世界1990年7月号、中村修七段(当時)の「プロのテクニック」より。

近代将棋1990年1月号より。

 今任意に選んだプロ棋士10人に、ある大差の局面から指してもらうとする。

 まあ、ほとんどが本筋に沿った寄せ方を見せてくれると思うが、多少の緩みも許されるとなれば一気に行こうとする人、安全勝ちを目指そうとする人など様々であろう。

 速く勝つのが最善とは思わない。手数ではなく、自分の一番間違いにくい勝ち方に誘導する事が最善と思う。

 見落としなどが重なり、9対1ぐらいの形勢になると相手もあきらめてしまう。

 こんな時こそ一番危ない。相手のそんな雰囲気が伝わると同情のあまり「早く楽にしてあげよう」などと考え、早指し気味となり読み不足に陥る。

 中には無意識の内に希望を持っているのにあきらめの態度が外に出てしまう人もいる。これを一般に「死んだフリ作戦」(私は使いませんよ多分)と言い、終盤戦に於ける高度な戦術の一つである―。

 冗談はともかく、本来、優勢な時こそ落ち着いて指さなければいけないはずで、大差にした責任を取るためにもしっかりと勝つ必要がある。

 さて、実際に大差将棋を勝つにはどうしたら良いものか。第一に考えられるのは当たり前ならが悪手を指さない事である。

 大きな差があれば少しの緩手ぐらいではビクともしないが、悪手は一手で逆転の可能性があるから怖い。

 優勢を維持するためには勝負手らしき手は狙わない事(失敗すると悪手になるため)。平凡かつ堅実にポイントを稼ぐ指し方がベストの様に思う。

 それと9対1の形勢が6対4までに近づいてもあわてないことだ。少しのリードさえ残っていれば、間違えない限り必ず勝ちきれるはずだから。

 そして第二には、逆に相手に悪手を指してもらうという事である。実戦例で説明してみたい。

 1図(私の実戦より、対大内九段戦。王様の堅さこそ同じぐらいですが、銀桂交換の駒得、駒の働き、手番と先手の条件が勝り、必勝と思える局面です。但し、将棋には持将棋模様以外に判定勝ちはないため、9一玉を詰めるまで安心してはいけません)の形勢判断をしてみると駒得で働きも良く、7対3ぐらいと思っていた。相手玉も堅いが自玉も安全。かなりの無理も利く形である。

 そこで▲6二銀などという過激な順も浮かんだが、以下△6二同金上▲同馬△同金▲同竜△7一銀打▲7三竜△同銀▲3一飛までの進行はいかにも強引過ぎるし、5.3対4.7ぐらいで差もわずかとなってしまう。ほかには▲6五歩と突き出す手も△6五同歩なら▲6四銀をみて、一見本筋と思える。しかしこの場合は最悪のタイミング、以下△7五歩▲同歩△同馬で、次の△6五馬が王手竜取りのラインに入ってしまい、逆転ムードとなってしまう。

 後手からは速い攻めがないという事、これをしっかりと認識しなければいけません。結局、指した手は▲5五歩。

 これは、▲5四歩~▲5三歩成~▲6二との狙いだが一目遅い感じがする。対して△5三歩と受けようものなら▲5四歩△同歩▲5三歩とかえって攻めが速くなるため適当な受けはなく、後手は攻め合う一手となっている。

 こちらも初めからと金攻めが間に合うとは思っていない。つまり、この▲5五歩は、「早く来ないと、と金を間に合わせてしまうよ」「今が最後の攻めのチャンスだよ」と言う様なもので相手の無理攻めを催促しているのだ。

 こうした態度をとられると、当然ながら誰でも怒って攻めてくるはず。

1図以下の指し手
▲5五歩△7五歩▲同歩△9四歩▲7四銀(2図)

 △7五歩~△9四歩と自陣を顧みず攻めて来た手は、差し詰め怒りの逆襲といった所。喜んで▲9四同歩は、△9六歩▲同香△8四桂▲9五香△7五飛と捌かれてつまらない。

 端は無視して▲7四銀(2図)と飛車を取る手が分かりやすい。

2図以下の指し手
△7四同飛▲同歩△4七馬▲7三歩成△同銀▲9四歩(3図)

 △4七馬から次に△7四馬と引かれると粘られそうだ。軽く▲7三歩成と成り捨て、今度は薄くなった端を取り込んで(3図)必勝形である。

 この将棋のポイントは▲5五歩に尽きる。大差だからといって勝ちを焦ることなく、逆に手を渡された後手は、と金攻めより速い手を見つけなければいけない。多少の無理をする。先手はそれに付け込む。

 自分で動くより、相手に動いてもらった方が勝ちが速くなるという、好例である。

* * * * *

中盤であまりにも優勢になった場合、

  • 相手に残されているわずかな狙いも封じて完封してやろう
  • とにかく今の優勢を保ちたい

というような思いが浮かんできて、手が伸びなくなることが多い。

例えば自宅に銀行に預けるわけでもない10億円の現金があって、お金は一銭も減らしたくないと思いながら日常生活を送っていたら、(盗まれはしないだろうか、日本がインフレになったらどうしよう)などの心配事が増え、ぎこちない生活になってしまうだろう。

* * * * *

「優勢を維持するためには勝負手らしき手は狙わない事(失敗すると悪手になるため)。平凡かつ堅実にポイントを稼ぐ指し方がベストの様に思う」

一般的には株も有効な投資手段の一つだが、10億円で満足し、10億円を減らしたくなければ株には手を出すなということ。

「それと9対1の形勢が6対4までに近づいてもあわてないことだ。少しのリードさえ残っていれば、間違えない限り必ず勝ちきれるはずだから」

株に手を出して6億円まで減ったとすればかなりパニックになるだろう。

しかし、過去の経緯は忘れて、6億円も持っていると思えば、豊かな気持ちになれる。対局の最中に、失われた4億円のことについて考えてはいけない。

とは言え、当事者になってしまうと実行は非常に困難だ。

心したい。

* * * * *

「そして第二には、逆に相手に悪手を指してもらうという事である。実戦例で説明してみたい」

これができるようになれば、香車1枚どころか、角1枚強くなれると思う。

「相手に手を催促して、相手に悪手を指してもらう」というテーマの技術書があれば、かなりためになるのではないだろうか。

 

「関係ないことですが、女性に対し、最近の私は、この▲5一角のようにはっきりしない手を選んで、失敗の連続」

将棋マガジン1991年1月号、泉正樹六段(当時)の「囲いの崩し方」より。

 4図は、互いに竜を作り、寄せの構図をどう築くかという局面。

 ここで、▲7三竜や▲9一竜と桂香を取る手は、次に厳しい手もなく、後手を安心させるだけ。

 それに、玉が二段目にいる状況では、竜(飛)もその筋にきかせておく方が、より効果的な攻めができるものです。

〔候補手〕①5一銀、②4三歩、③5一角。

 ①5一銀? この手だけは、着手を踏みとどまったとしても、浮かんだだけで勝利の女神は遠のきます。

 ほったらかしの△5七銀成なら▲4二銀成で銀の顔は十分立ちますが、強く△4一金と引かれた場面を想像すると、そっけない返事で可愛い娘にソッポを向かれた、もてないナンパ師の様。

 ②の4三歩が、ハートを射止めるのに最適の「しびれの一着」。

 これに対し、△同金直が普通の応手ですが、そこで▲4一銀が「矢倉崩しの基本」ともいえる攻めです。

 以下、△4二金寄と頑張っても、▲6一角(参考F図)で後手陣は収拾困難。

 戻って、▲4三歩に対し、△同金左はやはり▲6一角が急所の一着。

 △4一金は手順に▲9一竜と香を取り、何れも先手勝勢となります。

 金頭に一本叩くだけで、これだけの成果が上がるのですから、正しく「一歩千金」とはこのことです。

 ③の5一角は、如何にもさえない感じのする手で、△5七成銀と迫られ、はっきりしません。

 関係ないことですが、女性に対し、最近の私は、この▲5一角のようにはっきりしない手を選んで、失敗の連続。男らしい態度が必要と痛感しています。

(以下略)

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泉正樹六段(当時)らしさ全開の囲いの崩し方講座。

▲5一銀よりは▲5一角の方がまだ救いはあるが、たしかにいかにも冴えない手に見える。

泉六段は「最近の私は、この▲5一角のようにはっきりしない手を選んで、失敗の連続。男らしい態度が必要と痛感しています」と吐露したいという思いから、この例題を作ったとも考えられる。

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①5一銀の、そっけない返事で可愛い娘にソッポを向かれた、もてないナンパ師の様。

泉八段は、このような状況も経験している。

27年前の悲劇