谷川浩司王将(当時)の読めば必ず強くなれそうな講座

近代将棋1994年1月号、谷川浩司王将(当時)の「寄せを極める」より。

将棋マガジン1993年9月号より、撮影は弦巻勝さん。

 新年号から1年間、終盤の講座を担当する事になりました。

 終盤戦は、将棋の中で一番難しく、また重要な分野ですが、自玉を詰められるまでに相手玉を詰める、という目的がはっきりしているので、読みを進めていきやすい、とも言えます。

 できるだけ理論的に解説していきたいと思っています。よろしくお願い致します。

 1図は△5八とと寄られた局面。これを題材に、終盤戦ではどのような順序で読みを進めてゆけば良いか、を説明したい。

 まず、相手玉に即詰みがないかを考える。詰んでしまえば話は簡単だが―。

 ▲7一角から迫るしかない。これに△9二玉なら、▲9三金△同桂▲同角成△同玉▲9一竜で詰むので、△同金の一手。以下▲同竜△同玉▲6二金打△8二玉▲7一角△9二玉▲8二金△9三玉▲8一金△8四玉▲7五銀△8五玉(2図)で僅かに詰まない。

 6二の金が6一に居れば、2図から▲9七桂△7六玉▲7七金△7五玉▲5三角成から長手順の即詰みがあるのだが、△7一同玉のときに▲6一金打としても△7二玉と皮肉に逃げられてしまう。

 次に、自玉は詰めろだろうか。詰みがなければ、相手玉に必至をかけて勝ちなのだが―。

 ▲6二金は、△6八と▲7七玉△7八と▲8六玉△8五銀▲同玉△8四歩(3図)。以下は簡単な即詰みである。   

 相手玉が詰まず、自玉が詰めろ、となると普通は一手負けなのだが、ここで攻防の一手がある。

 ▲7七玉(4図)。これが詰めろ逃れの詰めろになっている事は、2図を見れば一目瞭然であろう。 

 4図以下、後手が詰めろを防ぐとすれば△9二玉ぐらいだが、▲9五歩がまた▲9三金からの詰めろになるので、先手の一手勝ちである。

<今月のまとめ>

相手に即詰みがあるか。

A.即詰みがあれば、詰まして一手勝ち。逆王手に注意。

B.即詰みがない時、自玉が詰めろになっているか。
 (ア)詰めろでなければ、相手玉に必至をかけて一手勝ち。
 (イ)詰めろの時、
   a.受けに回って、詰めろを消す。
   b.王手をかけながら、駒を使わせて詰めろを消す等。

 詰めろ逃れの詰めろで玉への速度を逆転させて、鮮やかな勝ちを狙おう。

<今月の宿題>

 毎月宿題を出すので、考えて頂きたい。考慮期間は1ヵ月である。

 今月はまず、将棋盤に△1一玉と▲1三歩を置く。これで何を持っていれば詰むか、というのが問題である。

 金1枚は誰でもわかる。飛だけでは詰まないので、あと何が必要か。角を持っている場合はどうか、などと考えて、少なくとも5通りは発見してほしい。

* * * * *

非常にロジカルでわかりやすく、凛々しい雰囲気の講座だ。

終盤の読みの手順が丁寧に、かつ工夫されて解説されているので、10倍理解度が高まるような感じがする。

実戦で、詰めろ逃れの詰めろをかけるのは非常に難しいことだが、これなら自分でもできるかもしれない、と希望が持ててくるところが嬉しい。

同時に、「もっとやっておけばよかった詰将棋」という言葉も思い浮かんでくる。

* * * * *

「考慮期間は1ヵ月である」という恐ろしい今月の宿題。

解答は次の通り。(近代将棋1994年2月号、谷川浩司王将(当時)の「寄せを極める」より)

  1. 飛飛
  2. 飛角
  3. 飛銀
  4. 飛桂桂
  5. 飛桂香3
  6. 飛香4
  7. 角角銀
  8. 角銀銀

これだけ発見できれば100点満点である。付け加えると、6と7は何れも9一で詰む。8と9は似ているが、8は▲3三角、9は▲4四角でないと詰まないのが面白い所である。

この宿題で100点満点を取れるようであれば、神の領域だと思う。