羽生善治二段と佐藤康光初段の初対決

将棋世界1985年2月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 俊才揃いと評価も高い、57年入会組。出遅れ気味だった豊川も、11連勝で1級まで追いつき、ますます層を厚くしてきた。

 その中でもひときわ光る存在なのが羽生善治二段。続くのが佐藤康光初段である。同期でありながら、佐藤が関西デビューだったため、これまで一度も対戦がなかったが、今月ついにそれが実現した。

 読者の皆さんに前々から約束していることでもあり、将来必ずや価値の出る将棋であると思われるので、異例ではあるが全棋譜を紹介する。

下手:佐藤康光初段
上手:羽生善治二段
手合割:香落ち

△3四歩▲7六歩△4四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△3三角▲1六歩△3五歩▲1五歩△6二玉▲4八銀△7二玉▲6八玉△8二玉▲7八玉△7二銀▲5八金右△5二金左▲1四歩△同歩▲同 香△3六歩▲2四歩△同歩▲3六歩△1三歩▲同香成△同桂▲1八飛△1二歩▲1四歩△2五桂▲1三歩成△4五歩▲2三と△8八角成▲同銀△3六飛▲1二飛成△3八飛成▲3九歩△2九竜▲3四角△6二金寄▲2一竜△4二銀▲3二と△4三角▲同角成△同銀▲4二と△3四角▲3三角△1八竜▲1九歩△1六竜▲2四角成△3六竜▲3三馬△5四銀▲5一と △7一金▲3二竜△1二角▲5二と△同金▲同竜△3三竜▲1二竜△6一香▲2一竜△2四歩▲5六歩△4六歩▲5五歩△6五銀▲5四歩△3七桂成▲5五角△4八成桂▲3三角成△5八成桂▲同金△4七歩成▲同金△5八銀▲4八金△6六桂▲同馬△6九角▲7七玉△7八金▲8六玉△6六銀▲同歩△8八金▲9六銀△8七金▲同銀△9五角▲9六玉△8五銀
まで、103手で上手勝ち

 香落ち定跡はよく知らないんですと口を揃える二人らしい(?)出だしだが、中盤のもみ合いの力強さ、渋さは目を見はらされる。

 最後はいつもの”康光粘り”が出ないままに羽生の鋭い寄せに屈した形。羽生もそうなのだが、佐藤はちょっと自分のペースを見失った状態のように見える。早く本調子をとりもどしてほしい二人である。

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この棋譜を並べてみたい。

羽生佐藤1

ここから佐藤初段が仕掛ける。

1図以下の指し手
▲1四歩△同歩▲同 香△3六歩▲2四歩△同歩▲3六歩△1三歩▲同香成△同桂▲1八飛△1二歩▲1四歩(2図)

羽生佐藤2

2図以下の指し手
△2五桂▲1三歩成△4五歩▲2三と△8八角成▲同銀△3六飛▲1二飛成△3八飛成(3図)

▲1二飛成のところ▲3七歩と飛成を防ぐのは△2六飛と回られてつまらない。

羽生佐藤3

3図以下の指し手
▲3九歩△2九竜▲3四角△6二金寄▲2一竜△4二銀▲3二と△4三角(4図)

非常に早い展開。羽生二段の△4三角がドキッとするような手。

羽生佐藤4

4図以下の指し手
▲同角成△同銀▲4二と△3四角(5図)

△4三角に▲2三角成だったらどうなっていたのだろう。△3一歩だろうか。

△3四角も渋い。間接的に先手玉を睨んでいる。

羽生佐藤5

5図以下の指し手
▲3三角△1八竜▲1九歩△1六竜▲2四角成△3六竜▲3三馬△5四銀▲5一と △7一金▲3二竜△1二角(6図)

▲3三角は△3六歩~△6六桂への防ぎも兼ねている。▲3五歩ととても打ちたくなるが二歩。

△1二角が妖気を含んだ手。

羽生佐藤6

6図以下の指し手
▲5二と△同金▲同竜△3三竜▲1二竜△6一香▲2一竜△2四歩(7図)

角を取り合って落ち着く所に落ち着いた感じだが、桂取りを防いだ△2四歩打が実戦的な一手。

羽生佐藤7

7図以下の指し手
▲5六歩△4六歩▲5五歩△6五銀▲5四歩△3七桂成▲5五角(8図)

ゆっくりした手順が少し続く間もなく、急激な攻め合いに。

羽生佐藤8

8図以下の指し手
△4八成桂▲3三角成△5八成桂▲同金△4七歩成▲同金△5八銀(9図)

お互いに騎虎の勢い。

羽生佐藤9

9図以下の指し手
▲4八金△6六桂▲同馬△6九角▲7七玉△7八金▲8六玉△6六銀▲同歩△8八金▲9六銀△8七金▲同銀△9五角▲9六玉△8五銀(投了図)まで、103手で羽生二段の勝ち

羽生佐藤10

二人とも非常に若々しく溌剌とした指し手。

見ていて、清々しい気持ちになってくるから不思議だ。