湯川博士さんと原田泰夫遺墨展へ行く。
湯川さんとは14時頃会場で落ち合うことになっていたが、交通機関トラブルのため鳩居堂へ着いたのは14時30分だった。
鳩居堂画廊は3階と4階、1階と2階の売り場は満員状態。慌てて階段を上り3階へ。
落ち着いた、いい雰囲気。
受付の天女(原田九段がよく用いた言葉)のような美しい女性が「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれる。
受付で記帳する。
私は人に自慢ができるくらい字が下手だが、毛筆一筆目から大失着。一画目の横棒が1cmくらいの太さになってしまった。「マズい」と思いながら二画目、三画目、どんどん酷くなっていく。
目の前には笑顔の天女、全身から汗が流れる。
書いているうちにもっと不吉な思いが頭をよぎった。
「ここは違う会場なのではないだろうか」
渡されたパンフレットを見ると「稲澤九豊書作展」。
すぐに会場を出るわけにもいかないが、湯川さんをこれ以上待たせるわけにもいかない。3分ほど見てから4階に向かった。ごめんなさい。
4階に上ると15名くらいの人がいた。
湯川さんは榮子夫人と話をしていた。
榮子夫人のお話。
「不思議なご縁で、3階で書作展をやられている稲澤九豊さん、佐世保の方なんですが、羽生名人のお父様の二学年後輩なんですね。将棋もお好きで原田のファンでいらっしゃるということなんです。ここにも原田の著作を展示しているのですが、私達が持っていない原田の著作を2冊もお持ちで、わざわざここに持ってきてくださって」
「そうなんですか。来たとき間違って3階に行っちゃったんですが、そんなご縁があるんですね」
湯川さんも私と同じ間違いを経て、ここに来たようだ。
その後、榮子夫人は、展示されている原田九段が原稿を書くときに愛用した小さめの盤と宮松駒、原田筆による熊沢良尊氏の駒、昭和20年代の著作など、思い出を語ってくれた。
盤駒には詳しくない私ではあるが、原田筆による熊沢良尊氏の駒は、本当に欲しくなるくらいの書体の駒だった。
書は39点展示されている。私は書にも造詣が全くないが、特に心に残ったのは「日本海」と「堂々と勝ち堂々と負ける」
「日本海」は大きな字で書かれており、日本海に渦潮はないのだが、まるで渦潮を見ているような感じになる作品だった。
「堂々と勝ち堂々と負ける」は、「堂々と勝ち」の部分が墨の色濃く、「堂々と負ける」の部分の墨はかすれている。
言葉も良いが、「堂々と負ける」の墨のかすれが気持ちをあらわしているような感じがして印象深い。
会場には原田ご夫妻のお孫さん(彼女も天女のような美女)も常駐されている。
羽生理恵さんが会場へ来られたときの新聞のコピーも貼られていた。
会場を出たあと、湯川さんと喫茶店に入った。通常ならば飲みにい行くのが定跡なのだが、この日はお互い用事があり、そうもいかない状況だった。
喫茶店では、私が氷イチゴ、湯川さんが氷メロン。
実は、私はかき氷が大好きだ。
1時間ほど話をして喫茶店を出る。
来週は、湯川さんの家へ遊びに行く予定。