人間万事塞翁が馬(最終回)

気を取り直して第3戦。

川北さんは四間飛車。中盤での大胆な捌きが成功し圧勝パターン。

私は珍しく相中飛車。途中から飛車を左翼へ転回し、どうにか終盤優勢になったところ。

王様とは反対側の敵陣に深く潜り込んでいる馬の活用をどうしようと考えていると、隣から

「あっ、、それっ…」

「えっ、あじゃー、やっちゃった」

という声が聞こえてきた。

川北さんが二歩を打ってしまったのだった。

第2戦での私のトン死と全く同じような状況。相手は秒読み、こちらは持ち時間をたっぷり残しての必勝形。

「川北さんに、私の不運な指運をうつしてしまったかな」

と思いながら指した手が決め手となり、私は勝つことができた。

チームは4勝3敗で再び薄氷の勝利。

川北さんは残念がりながらも

「これだから人間同士の将棋は面白いんだよな。コンピュータならこうはいかないもんな」

確かに私もそう思う。第2戦でのトン死は、長い目で見れば良い思い出になりそうだ。

そして、この日最後の第4戦。

私は△3二金型向飛車。中盤まではうまく指せたが、相手のやや無理とも思える美濃囲いへのコビン攻めに対し「攻めきれるものなら攻めて来い」と意地を張ったのが大間違い。いいところなく負けてしまった。

川北さんは相振飛車。中盤の長い将棋だったが、終盤は川北さんが大駒3枚を自分のものとし、入玉も確定的だった。しかし途中から紛れはじめ、川北さんの迫力ある寄せが出たものの、この時に渡した角が原因となりトン死。

私「川北さん、今日はネタになることだらけじゃないですか」

川北「途中で方針変えたのがいけなかったんだよなー。徹底的に入玉狙っていれば良かったんだ」

これも、私の第2戦でのトン死に似た逆転のされかただ。私も受けきる方針を途中で変えて決めに行ったのが敗因だった

しかし、何はともあれ、チームは4勝3敗で三度の薄氷の勝利。

チームの通算成績は5勝3敗となった。

この日、川北さんは仕事の関係で打ち上げには参加できなかったが、チームメンバーから「川北さんは強い」という声が数多くあがっていた。

川北さんのホームページの日記っぽいところには、ナマ人間、ナマ将棋としてこの日のことが書かれている。

確かにナマ人間とナマ将棋は面白い。