昨日は加藤一二三九段の鰻重の話だったが、今日は木村義雄十四世名人の鰻重の食べ方の話。
将棋ペンクラブ会報2003年秋号、河口俊彦七段の将棋ペンクラブ大賞(大山康晴の晩節)受賞のことば「天才の将棋的言語」より抜粋。
===
生前の芹沢博文は、いたく木村義雄名人を尊敬していて、いろいろなゴシップを聞かせてくれた。お得意にしていたのはこんな話だ。
「木村名人は昼飯のとき、赤坂の料亭で極上のうな重の出前をとる。それが運ばれると、ふたを取って茶をかけ、またふたをする。しばらく置いてふたを取り、うなぎを取り去る。そして香の物をおかずに、サラサラとかっこむ。うなぎをもったいないなんてケチッちゃいけない。ポイと捨てるところが、どうだ、しゃれてるだろ」
この話ははじめて書く。出し惜しみしていたわけではない。あまりにくだらないと思って書かなかったのだ。
芹沢は、「木村義雄論」を書くと言っていたがはたせなかったが、もし書き上げたとしても、さっきの話は書かなかっただろう。
しかし、芹沢も私も、ああいった話が好きなのである。
木村義雄という人間の一面があらわれていると思う。
(以下略)
===
ひつまぶしの鰻抜きのような食べ方だ。
それにしても、くだらない話とは思わないが、私には一生かかっても真似ができないことだと思う。
ハムカツサンドのハムカツ抜きならば、別の美味しさが味わえそうで試してみてもいいかなと思うが、カツ丼のカツ抜き、ハンバーガーのハンバーグ抜きあたりからは試そうという気も起きなくなる。
木村十四世名人の鰻重の食べ方は、江戸っ子の粋の究極の表現なのか、木村十四世名人のある種の屈折の部分なのか、盤外戦術なのか。
興味深いところではある。