女流棋士が五人集まると…(後編)

女流棋士が五人集まるとどのような展開になるか、後編。

近代将棋1998年4月号、中井広恵女流五段(当時)の「棋士たちのトレンディドラマ」より。

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私達が食事会を開いている目的はもう一つある。女三人寄れば姦しく、女五人では主人も逃げ出してしまったが、実は月に一度のお勉強会なのである。

将棋でないことは言うまでもないと思うが、人生には学ぶことが沢山ある。

「最近の若手は侮れない」

とは、久美ちゃんの弁。

「私たちの若い頃とは感覚が違うんだから、広恵、一緒に考えちゃダメだよ」

「そうだね」

だいたい、最近のとか、若い頃はという言葉が出てくる人間と、宇宙人感覚の人間が合うわけがない。

特にピュア宏美こと中倉妹はなかなかの兵(つわもの)だ。

「ピュア宏美なんて、いったい誰がつけたの?」

おもわず、全員でハモってしまった。

「え、あの…友達に『宏美ちゃんて純粋なんだね』って言われて、純粋っていうことは言い換えればピュアだから、自分で『ピュア宏美』と…」

「君ねぇ、よく恥ずかしくもなくピュアなんて言えるねぇ。本当に意味わかってるの?」

自分は爺婆組の人間(考え方が古い)だと言う、和チャンが窘める。すると、すかさず姉の彰子ちゃんが、

「ここは姉妹だけど、同じに考えないで下さいね。宏美と私は全然違いますから」

「でもさあ、彰子ちゃんは何とかしてこっち側に入ろうと話は合わせるんだけど、心の中では『何で?』って思ってるんだよね」

「そうそう、ここで反対意見を言うと、仲間に入れてもらえないから」

「本当は宏美ちゃんと同じ意見なんだけど、ここは姉姐達に合わせといた方がいいかなって。目が『宏美ゴメン』って言ってるもん」。

具体的な話の内容はとても書けないのだが、いつもこんな調子で夜が更けていく。感覚は合わないけれど、気が合うから最高に盛り上がる一日なのだ。

結局主人は、宴会場には一歩も近づかず、皆が帰ってから一言。

「やっと終わったか……」。

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山田久美女流三段は下戸、高橋和女流三段は車なので、ほとんど素面での会話になる。

このような面白い話の現代版を、中井広恵女流六段のブログ等でぜひ再開してほしいものだ。