中井広恵女流五段(当時)のボヤき(中編)

昨日に続き、近代将棋1998年12月号「棋士たちのトレンディドラマ」から、中井広恵女流六段の29歳当時のボヤき。

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こんなこともあった。JT杯日本シリーズの仕事で新潟へ行った時のこと。前夜祭の後、出演者だけで改めて食事をしに出掛けた。

ご存知、新潟は日本酒が美味しい処。軽く飲もうということになり、どのお酒にしようかと相談する。

N八段。

「谷川さん、『無冠帝』なんていうお酒がありますよ。これにしますか? まあ、谷川さんには縁のないお酒ですけどね」

谷川先生は、フフッという余裕の笑みを浮かべている。

すると、また八段。

「これは、広恵ちゃんが飲まなきゃいけないんだよね」

はあーっ? そこで私に振りますか?!

しばらくすると、本当に無冠帝が運ばれてきた。そこまで言うのなら飲みましょ。

軽くのつもりが、二本、三本。酔いが廻ってきて、またまたN八段。

「お化粧って、だいたいどれくらい時間をかけているの?」

読み上げ係を務める久津1級。

「五分くらいですよ。顔を洗って、パパッと。後ろ髪の毛に少しかかりますけど」

「えっ、そんなことないでしょう。まだ若いんだから。子供がいる人はわかりますけどね」

横目でチラッと私の方を見ながら返す。それは、もう子供を生んだら化粧をしても意味が無いということでしょうか。本当に、昔はもっと優しかったですよねえ、先生。

(つづく)

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1998年当時、「N八段」に該当する「な行」の苗字の八段は二人だけだった。

「棋士たちのトレンディドラマ」での過去の登場実績や、酒の銘柄に対するこだわりなどの点から、ここに登場しているN八段は、今年度からB級1組に復帰している不思議流のN九段と推察される。