昨日に引き続き、近代将棋2001年5月号、笹川進さんのA級順位戦最終局密着レポート「将棋界の一番長い日」より。
笹川さんはビールが大好きで、序盤、中盤、終盤、最終盤、ずっとビールを飲み続ける酒飲みだ。
23時39分
佐藤康光九段が頭を下げ、名人挑戦者が谷川浩司九段に決まった。谷川-佐藤戦は特別対局室で田中寅彦九段-羽生善治五冠の対局と盤を並べて行われていたので、邪魔にならぬよう、感想戦は3階の応接間に場所を移して行われた。名人挑戦の心境を、いつものように淡々と語る谷川。怒っているような泣いているような、憮然とした表情の佐藤。
この将棋は、勝った方が名人挑戦という大一番にもかかわらず、かなり早い段階で谷川優勢がはっきりした。控室では午後10時過ぎにはもう継ぎ盤は見向きもされず、「挑戦争いなのに誰も検討しないなんて寂しいねえ」と、ベテラン棋士がつぶやくほどだった。
(中略)
難攻不落の谷川角換わり城に突撃を繰り返し、またも跳ね返された佐藤。玉砕といっては失礼だろう。捲土重来を期待するのみ。
23時45分
森内俊之八段-青野照市九段の対局が、94手まで、青野勝ちで終わった。が、谷川-佐藤戦が終わった段階で、報道陣がそっちに入ってしまい、担当の観戦記者も不在。対局室「棋峰」で青野は、「観戦記者がいないのに感想戦をやってもしょうがないよね」と、笑いながら、「(谷川と佐藤は)どっちが勝ったの?」と、聞く。余裕たっぷりの表情で、森内にもさほど勝負の余韻が感じられない。
この日行われた5局の中で、唯一挑戦にも降級にも関係ないのが、このカード。対局室が穏やかなムードなのは、あるいはそのせいだったのかもしれない。そういえば森内は、朝からひんぱんに控室に顔をのぞかせ、ほとんど同型で進行する谷川-佐藤戦のモニターを見て、「いやですねェ」と、軽口を叩いたり、記者に、「気楽でいいですね」、とからかわれ、「一生懸命やってますよ」と、ムキになってみせるなど、はた目にもリラックスして見えた。
(中略)
▲1四桂の王手に△3三玉と逃げたところで森内が投了した。
数分後、担当記者が戻ってきて感想戦が始まったが、研究肌の二人の解説は、なにか学術論文の発表を聞いているようだった。
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次の名人戦の挑戦候補は、6勝2敗の渡辺明竜王か森内俊之九段。
10年前のこの時とは違って直接対局ではないので、今年のA級順位戦最終局での場合の数は四通り。四通りとはいえ、挑戦は渡辺明竜王か森内俊之九段に絞られている。
一方、今年のA級順位戦最終局の5局の中で、唯一挑戦にも降級にも関係ないのが、谷川浩司九段-郷田真隆九段戦。
10年前のA級順位戦最終局と今年のA級順位戦最終局は、やや似ているバランスかもしれない。