大盤解説の本音

「鈴木大介の振り飛車日記」は面白かった。

将棋世界2000年5月号、鈴木大介六段の「鈴木大介の振り飛車日記」より。

A級順位戦最終日。「将棋連盟の一番長い日」である。

僕はこの日別件で夕方まで仕事。その後で道場で大盤解説、と久しぶりに大忙しの日だ。

午前中、A級の進行を見ると振り飛車の将棋はわずかに一局だけ。がっくり肩を落とすと同時に(こう居飛車ばかりだと解説をどうしたらいいんだろう)という不安が起こる。

大盤解説の1時間前に控室でざっと今までの進行を並べる……。不安的中。振り飛車の中原-加藤戦以外さっぱり解らない……。一局も解らないのだ。

(中略)

そうこうしているうちに大盤解説の時間が来て、僕は宿題を残した子供が学校に行かされるかの様に後ろ髪を引かれる思いで大盤解説会場へ降りていったのだった。

今回の解説役は高橋九段と行方六段と僕の三人。

おぉなんて素晴らしい心強いパートナー達なんだろう。会場に着くまでに少しでも今日の将棋のヒントを聞こうと行方六段に近づくと、どうやらあちらも顔色が悪い。

「行ちゃん今日の将……」

「いやいやダイチ君。今日、たまたま少し遅く来ちゃってまだ棋譜も見ていないんだよ。ダイチ君は見たでしょ」

いやな雲行きだ。

「う、うん一応……」

「じゃ僕挨拶だけ済ませたら上で検討して来るから先に解説お願いね」

(何寝ぼけた事いっとんじゃい。こっちは今日の将棋ちぃとも理解出来んで苦しんでるんだワイ。なにがたまたま遅くだ。いつも遅刻じゃないか)

と喉元まで来た瞬間、高橋九段の

「じゃあ先に僕と鈴木君でやっていこう」

のツルの一声。これで僕の助かる道はなくなった……」

(大盤解説にて)

「僕はあまり居飛車は得意ではないのですが、ここまでで何か質問はありませんか?」

お客さんA「ここで(序盤)こう指すとどうなるんですか」

「それはですねー。いい手ですね、どうやるんでしょうか」

次の質問に……。

「これはこういう定跡……があった様な気がします」

また次の問いに

「今度は高橋九段や行方六段も来るのでその時難しい事は聞いて下さい」

いやあ本当に久しぶりに将棋で恥をかきました。恨むでー 行ちゃん!

やがてどの将棋も終盤戦を迎え、やっと序盤ベタな僕もホッと一息。

(中略)

午前3時30分頃タクシーで家に帰ると妻が起きて待っていてくれた。うれしい反面(こういう日こそ家で少し一人で将棋の勉強がしたいんだ)と思ったが、それは口が裂けても言えない事だ。それにしても将棋指しの奥さんは大変だなと思った。

(以下略)

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明日はA級順位戦最終局。