羽生善治三冠が最も印象に残っているタイトル戦(旅館編)

羽生善治三冠が最も印象に残っているタイトル戦、旅館編。

将棋マガジン1990年3月号、山田史生さんの、「第2期竜王戦七番勝負、激闘のあとを振り返る」より。

 第二局は持将棋だった。これについて何人かの関係者から言われた。

「引き分けじゃつまりませんよね。読売さんとしても面白くないでしょう」と。しかし実はそんなことはなかった。そう何回も続いたのではさすがに困るだろうけれど、読売主催のタイトル戦に限っていうと九段戦は12期、十段戦26期、竜王戦2期、計40期のうちでわずかに一回(42年度十段戦大山-二上)あっただけ、極めて珍しい出来事だったのだ。

 新聞にでたあと「将棋でも引き分けがあるんですね」「持将棋とはどういう状態をいうのか」「判定の基準となる駒数とは?}など社内や読者からの質問・感想が多くあり、むしろ持将棋が話題を投げた形になった。

 それにこれは担当者の立場からいうことだが、第二局引き分けで第五局まで行くことが確定したのはありがたかった。七番勝負開始前、対局場を決めるのだが、第五、六、七局にあてられた対局場や関係者は、果たして対局があるのかどうか、とても心配なのである。現実に第一期竜王戦は四-0、その前の最後の十段戦も四-0で、第五局以降は準備しただけで実現しなかった。

 地方の読売本社(または支社)の事業部がかなり前から準備に入り、ホテル等の対局場も前後三日間あさえてある。それがパーになるのはつらいことなのだ。こちらとしても四-0で終わると何か責任を感じてしまう。

 その意味で引き分けが一局挟まったので今後の見通しが明るく?なりホッとした気持ちになったものだった。さらに終局後も、勝者敗者がいないということは何となく心穏やかな心境で、七番勝負のうちに一局ぐらい持将棋があるのはいいものだとさえ感じられた。

—–

この心境は主催各社共通のものであると思われる。

昨年の竜王戦は第6局で終了したため、第7局の対局場として予定されていてた天童市の「ほほえみの宿 滝の湯」では対局が行われなかった。

その辺のバランスを考慮し、今年の竜王戦では第1局の対局場が「ほほえみの宿 滝の湯」となっているのかもしれない。

棋王戦の第4局・5局の対局場が、例年将棋会館であることも、このようなことと関係していることになる。