森内俊之六段(当時)インタビュー

将棋マガジン1993年3月号、鈴木輝彦七段(当時)の棋士本音インタビュー「枕の将棋学’93 ゲスト 森内俊之六段」より。

鈴木 今回はいま大活躍している森内君の世代の考え方を聞きたいと思ってきてもらったんです。若手といえば、研究会の存在が大きいと思うけど、森内君がいま入っている研究会は?

森内 塚田研究会と、いま休んでいますけど森研究会。これはイヌ年の棋士が集まった研究会です。あと準棋士の工藤先生の道場でやっている研究会ですね。

鈴木 それはどんなメンバー?

森内 中田功さん、郷田君、飯塚君、あと奨励会数人でやっています。

鈴木 研究会はどれくらいの割合でやっているの。

森内 熱心にやっている人から見れば、僕は少ない方で週一回くらいですね。

鈴木 それは少ない方だね。研究会についてはどう思っているのかな。

森内 勝つためには、やはり必要だと思いますけど、公式戦で戦う相手ですから、あまりやりすぎるのもどうかなという気がしますね。

鈴木 羽生君が十回の研究会よりも一局の公式戦と書いていたけど、そういった意味もあるよね。けれども、やっぱり研究会は必要?

森内 一応一回見た局面と、初めての局面では全然違いますから。

鈴木 だけどマイナス部分もあるよね。あまり、練習の段階で手の内見せちゃうと・・・。

森内 そうですね。研究会でいつも指している人とは、本番ではちょっとやりづらくなることもありますね。

鈴木 僕も前に研究会をたまにやっていたけど、温めていた手をやっちゃっていいかな、という気がしたもの。試したいけど、どうしようかなと。

森内 そういうことは考えます。研究会で新手を指す時には、数日後には関東の若手棋士に知られているくらいのつもりがないと、指せませんね。

鈴木 でも、ぶつけるんでしょう。

森内 大事な対局の前で一度試しておきたい、という時くらいしかそういう手は指せないでしょう。そんなに持っている手が多いわけではないですから。

鈴木 そう、あまりやらない? いまは合理的に割り切っているのかな、という気もしたけど、やっぱり、出さない部分があるんだ。

森内 最後の最後は見せないんじゃないですか。

鈴木 そうすると、研究会はどのへんがいいのかな。

森内 最先端の研究というか。

鈴木 でも手の内を見せてなければ、関係ないんじゃない。

森内 みんながやってくる戦法を一応カバーして、絶対五分以下にならないよう対策を立てるんです。それで、自分からリードしていく手は取っておいて、そのうちに使うという。

鈴木 なるほどね。

森内 研究していないために負けたら恥ずかしいですし、バカみたいなので。

鈴木 将棋の研究っていうのは、やめられなくない?たとえが悪いけど、百円玉がずっと落ちている道があって、それを拾い続けているとするよ。自分が拾うのをやめると、後ろの人が拾うでしょう。どこでやめるか悩むじゃない(笑)。

森内 (笑)。

鈴木 そういったジレンマは研究会にはないかね。やればやるほどいいけど、すべての時間を取られるようなことはないかな?

森内 僕はそこまでやっていないから、分からないですけど。研究だけで勝とうとは思っていなくて、相手の研究にハマらなければいいと基本的に思っているので。

鈴木 ハマる恐怖を感じている?

森内 ええ、研究熱心な人と対局する時は、終盤まで研究できるような定跡型だと怖いなあと思うので、指す前から何かの圧迫感を受けますね。

鈴木 将棋の勉強はやり出すときりがないよね。

(中略)

鈴木 島研というのが有名なんだけど、あれは島君が提案して、羽生、森内、佐藤康光の四人でやっていたでしょう。何年前?

森内 最初に始めたのは、僕とか佐藤君が二段くらいの時ですから、もう七、八年前ですか。

鈴木 意見が合ったというか、この四人ならと思ったのかな?

森内 最初は羽生君がいなくて、三人だったんですよ。島先生が六段で、佐藤君と僕の二人が教わっているという感じですね。一人が記録をとって、負け抜けでやったりしていました。

鈴木 研究会は三人も結構楽しいんだよね。真部、飯野、鈴木でやったことがあるけど、三人だと一人が秒を読んだりしていいね。

森内 二人の長所が分かりましたし、自分にない感覚とか勉強になりました。

鈴木 なるほど、それで後から羽生君が入ってきたんだ。

森内 羽生君が一緒にやるようになったのは、僕と佐藤君が四段になってからなんです。羽生君は奨励会入会は同期だけど、僕が初段か二段のころすでに四段になっていまして、島先生もやりづらいだろうと気を遣ってくれたようです。

鈴木 そうか、やりづらいだろうね。

森内 今になって思うと、凄く気を遣っていてくれてたんですね。

鈴木 島君というのも、面白いところに目をつけるよね。目のつけどころが違うという感じがする。佐藤、森内と研究会をやろうという感性が凄いね。

森内 普通はやりませんよね。こちらはまだ子供ですし、将棋も全然弱かったと思うんですけど、何故でしょう。

鈴木 そこが凄いなと思って。秘中の秘で、まさにしゃべれないことじゃないかな。

森内 聞いておいて下さい(笑)。

(つづく)

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森けい二九段率いる森研究会。

故・小野修一八段、森下卓九段、羽生善治二冠、森内俊之名人、先崎学八段がメンバーだった。

戌年の棋士が集まったとされているが、唯一、森下卓九段だけが戌年ではない。

森下卓九段は、将棋の強さ、人柄、真摯な姿勢などから、当時の各研究会から引く手あまただった。

戌年ではない森下卓九段が森研究会だったことには、そのような背景があるのかもしれない。

あるいは、苗字に”森”と付いていたからか。