ボトルと師弟関係

近代将棋1989年6月号、木屋太二さんの若獅子戦観戦記「アナグマには入玉」より。

 新宿二丁目の”あり”。ここは棋士がよく行く酒場として有名だ。

 ある日ある時、店をのぞいたら、中原棋聖、青野八段、神谷六段、羽生五段、先崎四段というベテラン、若手の、そうそうたるところがグラスをかたむけていた。

 カウンターに置かれた中原棋聖のボトルをふと見ると、名前のほかに何かマジックで書いてある。

「小倉が飲みました」

 と読める。弟子の小倉が中原師匠の酒を勝手にに頂いた。どうやら、そういうメッセージのようだ。

 そういえば、先崎四段もこんなことをいっていた。

「”あり”にはよく行きますが、だいたい師匠(米長九段)の酒を飲んでいる。自分でボトルをいれたことはありませんね」

 近頃、将棋界の師弟関係は、こんなふうになっているらしい。

(以下略)

—–

新宿の「あり」。

私が初めて店に行ったのは1996年のことで、その後、何度も通うようになる。

初めてボトルを入れる時、ママ(先代)にお願いをしてみた。

「私のボトル、中原誠永世十段のボトルの隣に置いていただけないでしょうか」

ママは快く引き受けてくれた。

中原永世十段(当時)のボトル(スコッチウイスキー)と同じ銘柄をボトルで入れた。

その当時、私はバーボンが好きでスコッチは苦手だったのだが、同じ銘柄でなければ隣に並ぶことは不可能になる。

私の飲酒人生の中で、スコッチウイスキーのボトルを入れたのは、この時が初めてだった。