羽生善治少年の消しゴム

将棋世界2003年2月号、巻頭コラム「一手啓上 第2回 羽生善治」より。

 将棋を始める時は、まずお互いに駒を並べる。私はいつも「大橋流」と呼ばれる、最初に玉、次に金、銀、桂・・・を左、右と並べるのだが、プロでも全員が同じようにしている訳ではない。

 オリジナルの並べ方の人もいるし、近くにある駒から並べる人もいるし、猛スピードで競争しているかのように(?)並べる人もいる。

 将棋界は歴史と伝統がある世界なので、統一されてもおかしくはないと思うのだが、そういう習慣はないようだ。

 ファンのみなさんと指導対局する時に、駒の持ち方、並べ方などで、なんとなくどれくらいのレベルにあるか想像できる。

 以前、右手を骨折して一ヵ月くらい左手で指したのだが、ずっと違和感があった。

 子供の頃は”パチッ”という駒音を立てたくて、よく消しゴムで練習したものだ。

—–

駒の並べ方には「大橋流」と「伊藤流」がある。

私も、両方とも頭の中には入っているのだが、実行したことはなく、いつも適当に並べている。

この文章を読んでしまうと、羽生二冠に指導対局を受ける際に、駒を並べる段階からガチガチに超緊張してしまうこと請け合いだ。

—–

羽生二冠の指し方は、駒をやや斜め方面から突入させてグリグリと着地させる方式。

加藤一二三九段の指し方は、超高速マサカリ投法のような打ちつけ方。

郷田棋王の指し方は、真っ直ぐ打ち下ろすが、着地の時にポワンと駒を置く感じ。

指し方にもそれぞれ個性があって面白い。