達人同士の会話

将棋マガジン1988年7月号、「インタビュー’88 二上達也九段の巻」より(記 信濃桂さん)。

 かつて二上九段の将棋を観戦した時だ。試合が終わり、感想戦も終盤に差しかかったあたりで、ふらりと大内九段が顔を見せた。記録係の横でしばらく駒の動きを追っていたが、目処がついたあたりで、

「さあ、二上先生。将棋も終わったことだし。ちょっと一杯行きましょうよ。フグか何かで、熱いやつをキュッとね」

 冬だったのだろう。そして大内九段の物言いから、二上九段の敗局だったような気もする。

「そう、熱いやつをね。それが楽しみで将棋を指しているんだよ」

 これは大人の会話である。仕事をするのは、この楽しみのため。三十数年の棋士生活を経て、様々な実績を重ねた今、「それが楽しみ」と二上九段は事もなげにいう。大人とはこうしたものではないかという気がする。

 大人になりきれない大人も目にする現在、二上九段が寡黙の中、ぽつりという情感。これが大人の世界である。

(以下略)

—–

1月か2月の落ち着いた冬の夜の小料理屋で、熱燗とふぐ鍋。

二上達也九段と大内延介九段の達人の酒席。

想像しただけでも、嬉しくなってくる。

—–

酷暑が続く日々。

このような真冬の出来事を文字にしたら多少は涼しくなるかと思ったが、熱燗やぐつぐつ煮えた鍋が頭の中を駆け巡り、かえって暑くなってしまった・・・