将棋マガジン1995年5月号、羽生善治六冠(当時)の「今月のハブの眼」より。
先日、タクシーに乗って家へ帰る時、運転手さんが私に気づいてか、こんな話をしてくれました。
その人はもう20年くらいの将棋ファンで、日曜日の将棋番組は欠かさず見て(仕事の場合はビデオに録画して)いて、たまに空き時間に仲間の人と実戦を指すようです。
その人には中学生の息子さんがいて、最近、親子で話をしたりすることが少なくなっていたのですが、その息子さんがひょんな所から将棋に興味を持ちはじめて、お父さんと対局をするようになったそうです。
最初のうちはお父さんの貫禄でずっと勝っていたようですが、今では息子さんも上達して時々、お父さんが負けることもあるようです。
それでも、その運転手さんは息子さんと将棋を通じて色々と話しを出来るから楽しいようです。
自分のことを振り返ってみると、確かに中学生・高校生の時に父親とよく話をしたという記憶はありません。
特に理由はないのですが、自然にそんな感じになったのです。
その時に何か間にはさむものがあれば自然に話が出来たかもしれないと思いました。
もっとも、自分の場合は父が将棋のルールを詳しくは知らないので、以前も今後も将棋を指しつつ話をするということはなさそうなのですが……。
いずれにしても、そのことを嬉しそうに話す運転手さんの笑顔は印象的でした。
(以下略)
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心温まる話だ。
羽生六冠に自分の話をできた運転手さんも、とても嬉しかったことだろう。
家での息子さんとの会話も、更に盛り上がったはずだ。
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1995年頃だったか、タクシーの運転手さんと話が弾んだ時の会話(深夜)。
私「あっ、そういえばこのトンネルには幽霊が出るという噂がありますよね」
運転手さん「そういう話は聞きますねえ」
私「本などを読むと、タクシーに幽霊を乗せてしまった話とかありますけど、運転手さんはそういうご経験はありますか?」
運転手さん「いやー、私はないですね。でも、事故が何度も起きる場所っていうのがあるんですよ。同じ場所で。あれは不思議だよなあ」
私「そうなんですかー」
私は怖い話が大好きなので、幽霊の話が聞けなかったことに少し残念感を漂わせながらも、このような話し好きで明るい雰囲気の運転手さんの所には幽霊は近づかないのだろう、と感じた。
しかし今になって考えてみると、その、事故が決まって起きる場所がどこなのか、聞いておけば良かったと思う。
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それにしても、1995年の東京の空の下、かたや上質な人情噺、かたや心霊話。
同じタクシーの中でも、こうも違ってしまうものかと、考えさせられてしまう・・・
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ところで、幽霊が出ると言われているトンネルは昔から多い。
仙台で育った私が子供の頃から聞いていたのは、旧・関山トンネル。
宮城県と山形県の県境にあるトンネルで、遠足でバスガイドさんが「このトンネルは幽霊が出ると言われています」と案内していたほどの場所だ。
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日本将棋連盟の近くにも幽霊が出ると噂される「千駄ヶ谷トンネル」がある。
東京オリンピックに合わせて1964年3月に完成した千駄ヶ谷トンネルは、墓地の下をくぐる形となっている。
全長61mの非常に短いトンネルで、昼間歩いても全くそのような雰囲気ではないのだが、数多くの怪異現象が起きているという。
トンネルの上のお寺は法霊山仙寿院東漸寺で、紀州徳川家の菩提寺として知られる。