将棋マガジン1995年7月号、萩山徹編集長の編集後記より。
森下「毎日新聞に『カナリアがオウムと戦う世紀末』という川柳が載っていましたが、私の相手もオウム並みです」
羽生「私はオウムではなくハブです。まあ、毒もありますが、それは盤上だけですから」
名人戦第3局前夜祭席上、両対局者の当意即妙のやりとりに詰めかけたファンは拍手喝采でした。
(以下略)
—–
1995年の名人戦は、羽生善治名人と森下卓八段の戦い。
名人戦第3局に先立って、ファン公開の前夜祭が5月2日に赤坂プリンスホテルで行われた。
この時点で、羽生名人の2連勝。
この頃の時代背景を見ておく必要がある。
3月20日 オウム真理教による地下鉄サリン事件発生
3月22日 警視庁がオウム真理教に対する強制捜査を開始
3月30日、国松孝次警察庁長官(当時)狙撃事件
4月8日 林郁夫逮捕(サリン散布実行犯)
4月12日 新実智光逮捕(林郁夫の送迎役)
4月23日 教団幹部 村井秀夫刺殺事件
4月26日 遠藤誠一逮捕(サリン製造役の指示・製造)
4月26日 土谷正実逮捕(サリン製造時の助言・製造)
5月15日~17日 麻原彰晃をはじめとする教団幹部10名を逮捕
今思い出しても、許せない事件だ。
前夜祭が行われた5月2日は、麻原彰晃の逮捕2週間前のタイミング。
—–
3月22日のオウム真理教施設強制捜査の際に、機動隊が有毒ガスに敏感なカナリアを連れて行ったことから、『カナリアがオウムと戦う世紀末』という川柳が生まれたのだろう。
森下八段の絶妙なあいさつ。
羽生六冠の切り返しも見事。
—–
盤上の毒。
パッと思いつくのは、と金。マムシのと金と言われるくらいだ。
羽生将棋に関して毒というと、やはり羽生マジックなのだろう。
じわじわと体中に毒が回るという印象だ。
—–
この前夜祭でのやりとりは、ほのぼのとしたものだが、その逆を行くのがプロレス界。
緊張感漂う控え室。
アナウンサー「若い者に胸を貸すわけにはいかないと言われていましたが、これはどういうことでしょう」
(中略)
アナウンサー「もし負けるということがあると、これは勝負は時の運という言葉では済まなくなりますが」
猪木「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」
猪木、アナウンサーに平手打ち。
猪木「出てけ、コラァー」
もう一方の控え室。
蝶野「つぶすぞ今日は。よく見とけ、ゴラァ」
(以下略)
のような展開。
大山康晴名人-山田道美八段戦の前夜祭があったとしたら、平手打ちは当然出ないとしても、ゴラァは出ないとしても、やや似た雰囲気になったかもしれない。