将棋連盟野球部事始め

将棋マガジン1991年8月号、泉正樹六段(当時)の「囲いの崩し方」より。

 今年のペナントレースは両極端。

 セリーグの大混戦は見ていて楽しい。地元のヤクルトが頑張っているのは、良い刺激を受けるし、阪神の貯金を与える寛大さは、慈悲の精神に通じる。

 それに比べて、あの西武の傲慢さはあきれるばかりで、もうすでにパリーグの灯は風前のともしび。

 順位戦のように、最後まで目が離せないダンゴレースに優るものなし。

 ところで、将棋連盟にはシルバース(関西)、キングス(東京)、バッカス(職員)の3チームがある。

 その実力の程は、あまり強くないリトルリーグさえも、がっかりさせるかもしれない。

 ただ、この3チームの中だけなら、互いに自分の所が一番だと思っているから何とも滑稽で、頼もしい。

 そもそも連盟内に、野球部が誕生したのはいつ頃なのか。

 はっきりとした事は定かではないが、伝え聞く所によると、初代の監督は加藤治郎先生。30年近く前には、二上先生と加藤(一)先生で三遊間コンビを組んでいたらしいから、古き良き伝統は現在でも失われていない。

 5月22日、大阪からシルバースがキングスとバッカスとの対戦のため、遠路はるばるやってきた。

 場所は駒沢公園内にある、軟式野球場。我がキングスは、当然「飛んで火にいる・・・」にすべく、手ぐすねを引いて待ちうけていた。

 戦う前から勝利を確信していたのはチーム一丸たるところ。というのはこの日は、有野先生の引退試合(将棋の現役引退を野球でという形)。

 有野先生といえば、キングスの土台を懸命に作った功労者。何となく”野球狂の詩”の岩田鉄五郎といったイメージが強く、そのマウンドさばきは草野球とはかけ離れている。

 予想に反して、有野先生はシルバースのクリーンナップに3、4本痛烈な打球をプレゼント。守備のうまさ?もちゃんとお手伝いして、3回で6点献上(自責点はせいぜい2点ぐらいなのだが)。

 こちらも敵の先発、小林(健)先生に対し、やはり3回で6点を頂く好ゲーム。この時点では最低12、13点の勝負と誰もが思ったことだろう。

 ところが、その小林先生がなぜか4回から立ち直ってしまった。

 投球内容を披露すれば、ストライクになる球は、すべて50~60ぐらいの速度。その遅さといったら、本当にハエがボールに止まってフンでもしかねない。で、あるから、星飛雄馬の開発した、あの大リーグ・ボール3号並で、スイングの風圧によって、ホームベースの手前でストーン。

 ボールになる球は打ちごろのスピード(80キロぐらい)なのだが、とても手を出す気にはなれない。

 そんな訳で、4、5、6回と0行進。最終回には抑えのエース、脇七段が登場して、情けなくも私が最後のバッターとなって万事休す。

 結局、10対6でシルバースの怪勝。

 続く第2試合、連勝を狙うシルバースはバッカスと対戦したが、先発の南王将の乱調と疲れの出始めた打線が惨発に終わり、15対3でバッカスの前にあえなく圧完敗。

 という事で、この日は我がキングスだけが、苦い酒(のはずない)を飲むハメに。

(以下略)

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子供の頃に野球で遊ぶ機会は多かったが、いつも使っていたボールは軟式のテニスボール(ゴム鞠)だった。

硬式野球は当然のことながら、軟式野球もやったことがない。

バッティングセンターに一度だけ行ったことがある。

時速100キロの球を見て、恐怖感を味わった記憶がある。

小林健二八段(当時)の80キロのボール球というのも、相当なスピードに感じられたはずだ。

時速50~60キロの球なら私も打ってみたい。

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3年近く前のブログ記事「加藤一二三九段とチョコレートなど」で紹介しているが、加藤一二三九段と二上達也九段が自らの野球について語っている。

将棋マガジン1995年8月号、神吉宏充五段(当時)の「神吉宏充の禁断の戦法」より。

まずは、加藤一二三九段。

「私はですね、野球が好きでして、ウンウン、サード守ればモノ凄く上手いですよ。モノ凄く。華麗なるフォームでファーストに投げ込むんですけど、ウンウン、これが自分で言うのも何ですけど、素晴らしい。本当に素晴らしい。今でもキングスでサードを守らせてもらえるならですネ、そりゃ皆さんに素晴らしい守備を見ていただけると思うんですけどネ。ウンウン。バッティングですか? これはダメ! そんな自慢できるほどのものではありません。私は自分をわかっていますから、ダメなものはダメとちゃんと言えます。守備は素晴らしいですけどバッティングはダメです、ハイ」

それを聞いている二上達也九段の反応。神吉五段による文章。

石田九段と加藤九段の立て板に水会話を静かに聞きながら、ときおり「ふっ」と渋い味を見せるのが二上会長。よく聞いているとなにやらボソボソ反論しているようだが…たとえば加藤九段の華麗なる守備には「自分で言ってるだけじゃわからん、言うのは誰でも言えるから」とか、「年が年なんだから」とか言っているような…。

それでも野球の話をフルと、暫く間をおいて「私もネ、昔は町内会のエースだった」と一言。

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Wikipediaによると、三塁手はゴロを捕球した場合に内野の中でも最も遠い一塁に送球をするため、時間の余裕が少なく、確実な捕球能力、遊撃手に次いで肩の強さと正確な送球能力が求められるという。

また、遊撃手よりも打者から近い位置にいるため、打球に勢いがある時点で捕球することになり、素早い反射神経と速い打球を恐れない度胸が重要となる、とある。

たしかにサードは難しそうだ。