中村修七段(当時)「みなさんも先崎君か誰かにカミソリを持たれて舌なめずりをされている所を想像してみてください」

将棋世界1990年7月号、中村修七段(当時)の「プロのテクニック」より。

 先日、新宿の床屋に行きました。いや違った、カットサロンと書いてありました。小学生時代からの行きつけの店へ行く暇がなかったので近場で済ませたわけです。初めて入ったその店で、頭を刈ってもらいながら思った事は、鋏一つにしても慣れないせいか何かぎこちなく、髪自身も嫌がっている様な気さえしました。そのうちいらいらしてくると悪い方へと考え出します。「ハタチぐらいだし、ひょっとして練習生ではないだろうか?」

 以前、親知らずを抜く時に研修生の練習台にさせられた事を思い出し、嫌な予感がしました。みなさんも先崎君か誰かにカミソリを持たれて舌なめずりをされている所を想像してみてください。やっぱり怖いでしょう。

 お金を払ってつらい思いをするのは歯医者だけかと思っていたのですが、そうでもないんですね。

 それでも慣れてくるとだんだん安心してきて、頭皮マッサージなどは実に気持ちが良く、最後はすっきりと晴れやかな気分で店を後にすることができました。

「たまに浮気もいいもんだ」というのが正直な感想です。

(以下略)

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近代将棋1990年10月号表紙より。

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「小学生時代からの行きつけの店へ行く暇がなかったので近場で済ませたわけです」

これは結構勇気のいるもので、あっさりと書かれてはいるが、かなりの決断をしたのだと思う。

自分のことを振り返っても、大学時代から行っていた理容店に、別の場所に引っ越してからも含めて20年以上通っていたほど。

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「ハタチぐらいだし、ひょっとして練習生ではないだろうか?」

新宿なので、意外とカリスマ理容師であった可能性もあるが、初めての店では不安になるのは無理もない。

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「みなさんも先崎君か誰かにカミソリを持たれて舌なめずりをされている所を想像してみてください。やっぱり怖いでしょう」

このようなところで引き合いに出されるのは、先崎学四段(当時)の個性派としての勲章と言っても良いだろう。

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この2~3ヵ月後、先崎四段、郷田真隆四段(当時)と中村修七段(当時)が函館を旅行し、有名な、点のある・ない論争が巻き起こることとなる。

点のある・ない論争