14:57
48問目(だったと思う)で私のシャープペンが止まる。
私の中に、この日で一番の衝撃が走る。
はじめの解答欄には中村太地六段の名前が入る。
中村太地六段は、実家にいる”バニラ”という名前の犬をものすごく可愛がっている。
また、中村太地六段は昨年から一人暮らしをはじめ、今年、また新しいところに引越しをしている。
血液型はB型だ。
中村太地六段は早実高時代、ハンカチ王子とは3年間クラスが別で面識はなかったものの甲子園の応援に行ったこと、早稲田大学時代はハンカチ王子や卓球の福原愛さんと同学年だったことも知っている。
そして、もう一つの解答欄で求められているのは、”ハンカチ王子”のフルネーム。
しかし………、私はハンカチ王子のフルネームを覚えていない。
14:58
呆然として1分あまり。
頭に血が上ったのか血の気が引いたのかのどちらかだった。
ハンカチ王子である斎藤佑樹投手のフルネームを覚えていない私が悪いといえば悪いのだが、あまりに……あまりな問題だ。
14:59
少し気を取り直して、49問目へと移る。
愛棋家で駒音コンサートなどを推進した作曲家、故・山本直純さんの名前と、山本直純さんが作曲した曲が主題歌となっている山田洋次監督作品の映画名を答える問題。
私にとっては絶好球の問題。
しかし、今になって考えてみると、この問題は1990年代以降に生まれた人にとっては超難問になるわけで、若い世代向けの48問目との絶妙のバランスがとられていたのではないかと感じている。
15:00
解答を終わった人は15:00から退出が可能になる。
教室の4分の1くらいの人が出て行ったと思う。
15:05
全問の解答を終え見直しに入るが、知識を問う問題なので分かる問題は分かるけれども分からない問題は分からない。
ハンカチ王子ショックなどの衝撃も大きい。
自信のない問題の数を数えることにする。
1問2点の3択問題では、40問中11問が自信のない問題。
1問3点の記述式では10問中3問が自信のない問題。
自信のある問題だけで点数を計算すると79点。
110点満点なので、7割の正答率ということになる。
自分の中での目標8割には遠い。
15:10
せっかくの機会なので、持ち時間ギリギリまで粘ることにする。
2級の問題は、将棋世界の付録の将棋文化検定対策問題集よりも難しく、また傾向も少し違っていたという印象だった。(付録に出ていたのと同じ問題は2問出題されていた)
簡単に思える問題もあったが、一例としては、私がやった一夜漬けから更に一歩踏み込まなければならないような問題も多かった。
15:28
時間いっぱいになる少し前に教室から退出する。
受ける前は、第一回なので縁起物、合否にかかわらず楽しみながら問題を解こうと思っていたのだが、実際に受検をすると受かりたくなるのが人情。
合格ラインは発表されていないが、7割ギリギリの成績では2級は無理だろうと思った。
教室から出る時の気持ちは、捌けない振り飛車を指した後のような感じ。
バレンタインデーに、憧れている同じクラスの女子生徒からチョコレートをもらえずに放課後を迎え、ガッカリしながら教室を出ていく男子生徒の気持ちにも似ているかもしれない。
15:30
教室からよろよろと出て受付の近辺を通ると中村太地六段が。
中村太地六段には8月下旬に非常にお世話になっている。
私「先日はありがとうございました」
中村太地六段「あっ、今日はいらしてくださったのですね。ありがとうございます。いかがでした?」
私「ハンカチ、、ハンカチ王子が・・・」
中村太地六段「えっ、斎藤佑樹君が!?」
中村太地六段は写真やテレビで見るよりも更に魅力的な人柄だ。
一度でも中村太地六段と話をしたことがある人は、一回で中村太地ファンになること間違いなし。
15:45
大講堂で、森内俊之名人、深浦康市九段、山田久美女流三段によるトークショー。
三人とも4級を受検しており、その感想戦。
とても面白い。
16:30
抽選会が始まる。
森内名人、深浦九段、宮田七段、植山七段、中村六段、上村四段、石田四段、渡辺四段、山田久美女流三段による指導対局、色紙、棋士切手などが当たる。
私ははずれる。
17:00
指導対局会場を少しだけ覗いて帰路につく。
「今日は出来が良くなかった・・・」
1時間半前に教室を出た時の気持ちをそのまま持ち越している。
17:05
会場の近所のコンビニの前でタバコを吸う。
秋も深まる夕暮れ。
一人で黄昏れたい気分だった。
「千駄ヶ谷の将棋会館に将棋文化検定の申し込みに行ったのは夏の真っ盛りの日だったんだなあ……。面白い試験だったけれども、難しかったけれども、力を出し切れなかったのが口惜しい」
タバコを吸いながら頭の中を駆け巡った曲は、
17:15
コンビニの前を見覚えのある人たちが通る。
GさんとNさんとAさん。
一緒に飲みに行こうという話になる。
皆2級を受検している。
東小金井に向かうバスの中でさっそく感想戦が始まる。
「あの問題は厳しかった」
「俳句の問題の正解は?」
など、それぞれわからなかった問題の話になる。
NさんもGさんもAさんも、将棋に関する知識は非常に豊富。
話をしていくうちに、私が正解していたと思った問題(坂田三吉のA級順位戦での成績など)が不正解であることを知り、青ざめる。
11問の自信のない問題以外での不正解が3問も見つかり、逆に自信があったのかなかったのか思い出せない問題で3問正解していることがわかり、自己採点の計算がグチャグチャになってしまった。
居酒屋に着いても感想戦が続く。
話を総合すると、4人とも概算で7割台近辺の出来だったということ。
そして、2級合格のボーダーラインが何点になるのかわからないが、4人とも悲観している状態。
ボヤキと嘆きと懺悔に満ち溢れた飲み会。
だんだん、落武者同士が山中で飲んでいるような雰囲気になってきた。
将棋文化検定のもう一つの大きな楽しみ方は、終わった後の居酒屋での感想戦なのではないかと思った。
21:00
GさんもNさんも日本酒冷酒を勢い良く何杯も飲んで眠っている。
落ちるか受かるかどうかはわからないが、今回の受検が面白かったことは確かだ。
結果は1ヵ月後に郵送されてくるという。