佐藤康光棋聖(当時)「賢いだけでは感動は呼ばない」

将棋世界2003年9月号、佐藤康光棋聖(当時)の第74期棋聖戦(佐藤康光棋聖-丸山忠久棋王)自戦記「嬉しい防衛の一局」より。

 棋聖戦開幕前。私は3連敗し、4月からは負け越しで臨むこととなった。相手は好調の丸山棋王。かなり厳しい戦いになる、と覚悟していた。

 が、フタを開けてみると2連勝。第一局の競り合いを勝てたのが大きく第二局は勢いで押した感じであった。

 そして第三局。ここで決めないと流れが変わる可能性がある。あまり余裕のある状態ではなかった。勝ちたいとは思ったが簡単な道のりは残っていないぞ、と気を引き締め対局に向かった。

 丸山棋王とのタイトル戦は名人戦以来。あれから3年ちょっと経つが随分と昔の出来事のように感じる。

 その時はフルセットの末敗れたが自分にとっては若さみなぎる将棋が多く、全力も尽くせたので今では良き思い出として残っているシリーズである。

 あの時は戦型が決まっていた。確かに他の方策もあったかもしれない。

 阿呆だの馬鹿だの言われたりもした。しかし、賢いだけでは感動は呼ばない。アホ、バカが戦うから面白いのである。ともかくまたこの大舞台で戦えることを嬉しく思った。

(以下略)

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佐藤康光名人が3勝4敗で丸山忠久八段(当時)に敗れた2000年度の名人戦。

当時の丸山八段は、先手なら角換わり戦法、後手なら横歩取り△8五飛車戦法で、無敵とも言える強さを誇っていた。

ところが、佐藤名人は全局で丸山八段の得意戦法を正面から受けて立ち、佐藤名人の側から見て●●◯◯◯●●の星取りとなる。

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相手の得意戦法を真っ向から受けて立つといえば、郷田真隆棋王もその代表的な一人だ。

たとえば、対丸山九段戦。

棋士別成績一覧のデータでは、2001年度以降、郷田棋王は丸山九段に9勝19敗と負け越しているが、毎回、丸山九段の得意形と戦っている印象が強い。

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「相手の得意戦法を全て受けなおかつ勝つ」ことを自らに課す。

非常に男らしくて格好いい姿だ。

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故・ジャイアント馬場さんは、「プロレスとはシュートを超えたものであり、相手の技を全て受け、なおかつ勝つという主義主張の下で成り立っている」と提唱し、そのスタイルは「王道プロレス」と呼ばれた。

プロレスが好きな郷田棋王に影響を与えたスタイルなのか、郷田棋王の元々の指向と合ったから郷田棋王がプロレスを好きになったのか、あるいは全く関連しないことなのか、興味深いところだ。