天野宗歩の読み方

将棋世界2002年7月号、故・真部一男九段の「将棋論考」より。

 読者からのリクエストがあったので、また天野宗歩の棋譜を紹介したい。

 この小論を通して一人でも宗歩に興味を持ってくださる方がおられるとすれば筆者としてこんなに嬉しい事はない。

 宗歩の読み方についてだが、私は長年「ソウフ」と読んでいた。将棋に関わる名前だからと自然にそう思い込んでいた。

 ところが最近、観戦記の草分けであった菅谷北斗星氏の著述の中で「ソウホ」と読みガナがついているのを発見した。これからはそう読むことにしよう。

(以下略)

将棋世界2002年8月号、故・真部一男九段の「将棋論考」より。

 前回、天野宗歩の読み方について「ソウホと読むことにしよう」と書いたところ、東公平氏から以下の御指摘をいただいた。「家元派の将棋指しにのみ、駒の字が許されていたそうで、宗桂、宗銀、宗金がいますから、ソウフかと思います。歩兵をフヒョウと読むのが正しいとするとソウフ」。東さんはこの見方をしておられるとのこと。建部和歌夫八段の研究でも、断定はできないがソウフとなっていたそうだ。

 宗歩は大橋家十一代宗金(のちの宗桂)の門人であったから、駒の字を名乗る資格はあったのだろう。「歩兵」の読み方は普通はホヘイだからその場合はソウホで良いのだが、どうもフヒョウと読んだらしく、木見金治郎九段は単にヒョウと云っていたという。ただ、ブヒョウとも読めるから、その場合はソウブとなってしまう。どうも資料(事実)が乏しく真実をつきとめるのは難しいのだが、現在の形勢はソウフ説が優勢といった状況である。

 これは全くの余談だが、昔々、佐藤義則奨励会員(現八段)はスンプと云っていたこともあったっけ、皆、意外に読み方に戸惑っていたのかもしれない。

 隣家の「将棋好きの中学生は四間飛車を「ヨンカンビシャ」と云っていた。これは「シケンビシャ」と読む。念のため。

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私も天野宗歩は「あまのそうふ」と読んでいたが、読み方が確定していないことを初めて知る。

Wikipediaには次のように書かれている。

天野 宗歩(あまの そうほ(「そうふ」とも)、文化13年(1816年) – 安政6年5月13日(1859年6月13日))は、江戸時代末期に活躍した将棋指し。

当時の新たな資料が発掘されない限りは、永遠に読み方は確定しないということになる。

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観戦記者の故・田辺忠幸さんは「たなべただゆき」が本来の読み方だが、100%近くのほとんどの人は愛称の意味も込めて「たなべちゅうこう」と呼んでいた。

使い方としては、「ちゅうこうさん」、「ちゅうこうの旦那」など。

100年後の棋書で、田辺忠幸さんは「たなべちゅうこう」という読みで書かれているかもしれない。

そういえば、田辺忠幸さん自身も、人の名前を言うときは音読みを多用していた。

将棋ペンクラブ大賞最終選考会の出だしのときには、作者の名前を、姓はそのまま、名を音読みで呼ぶ。

使い方としては、「大崎善生(おおさきぜんせい)」、「島朗(しまろう)」など。

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私は小学生の頃、「四間飛車」を「よんげんびしゃ」と呼んでいた。

「三間飛車(さんげんびしゃ)」を初めに知ったので、「よんげんびしゃ」と読むのは自然な流れだった。

大人になってから知ったこととしては、「新手」を「しんて」と読むこと。

好手(こうしゅ)、悪手(あくしゅ)、妙手(みょうしゅ)の流れで、ずっと「しんしゅ」と思っていた。

新手を「しんしゅ」と読まないのは「新酒」との混同を避けるためかもしれない。

「新手一生」が、「新酒一生」あるいは「神酒一生」に聞こえてしまう場合もある。

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好手、悪手、妙手、鬼手、奇手、緩手、疑問手を酒に変えてみると、好酒、悪酒、妙酒、鬼酒、奇酒、緩酒、疑問酒。

緩酒はアルコール分が低くて美味しくない酒、疑問酒は4軒目以降のハシゴ酒など、意味は通じそうだ。