屋敷伸之六段(当時)「毎年、この時期になると、やるせなさというか、せつなさというか、そういったものを感じてしまう」

近代将棋1996年5月号、屋敷伸之六段(当時)の「本筋の序中盤戦」より。

近代将棋1996年6月号より、撮影は炬口勝弘さん。

 毎年、この時期(3月)になると、やるせなさというか、せつなさというか、そういったものを感じてしまう。

 私のことでいえば順位戦。毎年、みんな上がっていくナと他人のような目で見ながらいつの間にか終わっていく。今年は2敗目を喫してからかなり長かったような気がしたが、気がついてみればいつの間にか終わっていた。そして、また6月から当たり前のように順位戦が始まっているはず。

 もう一つのことは、三段リーグ。お世話になった先輩がやめていくのを見るとつらいものを感じる。毎回そういうことを見ていくたびに、なんでこんな制度があるのだろうと思うのだが、それも時がたつと共に次第に忘れていく。

 そして、知らぬ間に自分自身の次の戦いが始まり、最後にまたこのような事を思うものである。

(以下略)

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2月下旬~3月前半に良いことがあった時の3月後半は、春の訪れとともに、ワクワク感が増幅される。志望校に合格したような時が典型例。

逆に、2月下旬~3月前半に志望校に合格しなかったり失恋をしたような場合は、3月後半はやるせなさ・切なさが増幅される。

ただ、そのような思いも、時の経過とともに薄れていくもの。

屋敷伸之六段(当時)の文章では、このような機微が見事に描かれている。

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屋敷六段は、この期の順位戦C級1組を5勝5敗で終えている。

屋敷六段がB級2組へ昇級するのは、この8年後のこと。

奨励会を2年10ヵ月、C級1組を1期で卒業し、18歳6か月で初タイトルを獲得、とロケットスタートだった屋敷九段が、C級1組に14期いたのは、将棋史の七不思議に入ることだと思う。

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屋敷六段は、この文章を書いた1ヵ月後の1996年4月から始まった全日本プロトーナメント決勝五番勝負で優勝し、意地を見せている。