NHK将棋講座2005年10月号、上地隆蔵さんのNHK杯将棋トーナメント2回戦 木村一基七段-高橋道雄九段戦観戦記「最後に見せた微笑」より。
高橋はひとりで集中力を高めていた。表情は仮面のようで、冗談など受け付けない雰囲気だった。額の汗も無言でぬぐっている。
木村はリラックスムードで関係者と楽しそうに雑談していた。話題の中心は6月15日に生まれた木村の第1子、女の子で名前は友香(ともか)ちゃん。「この間、おっぱいを欲しそうに泣いてたんです。それで僕がいたずらで自分のおっぱいをあげようとしたら、やっぱり拒否するんですよ」と新米パパが笑いをとる。まだ2ヵ月もたたない我が子がかわいくてしかたがない様子だ。高橋は会話の輪には入らなかった。
(中略)
感想戦では3図、4図付近が中心に調べられた。勝った高橋は敗者のように、あまりしゃべらなかった。表情は終始硬かった。敗れた木村は勝者のように、よくしゃべった。
「あ~あ、ダメだなあ。やっぱりオレは攻め方を知らないな」。周りを気遣っての快活さだった。木村は得意の粘り腰を発揮できなかった。
控え室に戻った。両対局者が帰り支度をしていた。しばらくして、汗を拭いていた高橋が思い出したように、木村に声をかけた。
「木村君、お子さん生まれたんだって? 対局前はゴメン。集中していたもので……」。木村は一瞬、意表をつかれた様子だったが、すぐにこやかに返答していた。
(以下略)
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木村一基八段の子煩悩ぶりが目に浮かぶようだ。
お嬢さんにおっぱいを拒否されていなかったなら、どうしていたのだろう・・・