将棋世界2003年3月号、森内俊之名人の「一手啓上」より。
昨年の10月からNHK将棋講座で講師を担当している。将棋番組に対局者やゲスト解説者として出演することはあっても、自分で番組を持つのは初めてなので、とても新鮮な気持ちである。
講座はまずテーマと内容を考えるところから始まるが、題材が「力戦振り飛車」と普段指し慣れないものだけに、手順を組み立てるのがなかなか難しい。アマチュア時代の自分の実戦を思い出したり、人が指している将棋を参考にさせてもらいながら進めているのだが、公式戦でも使えそうな指し方を発見すると嬉しくなる。講座では紹介しきれなかったものもあるので、また機会があれば試してみたい。
収録当日は準備万端で完璧、と言いたいところだが、なかなかそうはいかない。私はテレビカメラが大の苦手なのだ。それでも碓井さんの鋭いツッコミに助けられて残り数回までこぎつけることができた。最後ぐらいはカッコ良く終わりたいが、果たしてどうなるだろうか。
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森内俊之名人が2002年度後期に担当した講座は「森内名人の力戦振り飛車で勝とう」。
森内名人と力戦振り飛車の組み合わせが、とても不思議だ。
郷田真隆九段による「奇襲とハメ手」のような講座も、同じような意味で面白いかもしれない。
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森内名人は将棋講座のアシスタントに碓井涼子女流三段(現在の千葉涼子女流四段)を指名している。
以前の記事でも紹介したが、森内名人が碓井女流三段に「名人獲得おめでとうございます。いやあ、このまま無冠の帝王で終わるんじゃないかと思ってたんですがねえ」と言われたことがきっかけ。
そのとてつもなく無防備な、怖いもの知らずの踏み込みを、森内名人は高く評価したという。
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力戦振り飛車、なんと力強い響きなのだろう。
ダイレクト向かい飛車などは、昔の感覚では力戦振り飛車の範疇だ。
個人的には、力戦振り飛車というと、重く攻める振り飛車のイメージ。
決して軽くは捌かない。
玉も美濃囲いには囲わない。
阪田流向かい飛車はその典型で、筋違い角阪田流向かい飛車はもっとそのような雰囲気。
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それにしても、阪田三吉は阪田流向かい飛車を生涯で一度しかやっていない(同様の序盤は江戸時代から指されている)にもかかわらず、阪田流と冠されたのだから、すごいことだと思う。