将棋世界1992年8月号、「棋士交遊アルバム 谷川浩司竜王&吉川十和子(女優)」より。
「本誌は、棋界のプリンス谷川浩司と女優の対談を、前から企画していた。白羽の矢が立ったお相手は、テレビや舞台で活躍の吉川十和子さん。お似合いのご両人は、ずばり”お見合い対談”になるはずだった。だが本誌既報のとおり、対談の日の1週間前に谷川の電撃的な婚約が発表された・・・」
吉川 谷川さんとの対談の話を聞いた日に、新聞でご婚約を知りました。あらためて、おめでとうございます。お忙しいのに、よくもまあ・・・(笑)。
谷川 ありがとうございます。じつは名人戦に出ていると、4月、5月は忙しいんです。それが・・・人生、何が幸いするかわかりませんね(笑)。
吉川 私は5月で26歳になりました。同年の友達は、みんな花が咲いているのに、私は縁遠くなるばっかり。花嫁姿はドラマだけです。
谷川 私はお見合いです。
吉川 最近は、その方がトレンディなんですよ。ところで、どういうデートコースでした。
谷川 どうも、その話になってしまう。相手の方は名古屋なので、神戸との中間の京都が多かったです。金閣寺や嵐山によくいきました。
吉川 神戸は住んでみたい街ね。
谷川 なんでも受け入れてしまう、風通しのよい街ですね。
吉川 私って野球も阪神ファンよ。
谷川 じゃ、私と同じだ。今年は楽しみですね。前に掛布さんや真弓さんと、対談でお会いしました。
吉川 亀山や新庄の活躍を見にいきたいけど、私がいくと負けるの(笑)。
谷川 将棋の世界をどう思いますか。
吉川 衛星放送で見たことがあります。男の世界ですね。でも、私はそういう男っぽいものが好きです。カラオケでも、下手でもいいから演歌をしみじみ唄っているおじさんに感動しちゃう。
谷川 吉川さんのような方が将棋に興味を持ってくれると、将棋界のイメージが変わっていいですね。
吉川 今日、ロケの合間に駒の動かし方を習ったの。時代劇は形式の美だけど、将棋と共通点が多そうですね。教えてくれたのは、俳優の宮川一朗太さん。谷川さんに会うといったら、「えっ、すごい」と絶句していましたよ。「
谷川 私も時代劇が好きです。棋士は記憶力が良いといわれますが、役者さんのセリフおぼえは感心しますね。
吉川 谷川さんは刑事役が似合いそうね。それから、同じ事務所の辰巳琢郎さんと雰囲気が似ているわ。
谷川 役柄はいろいろと変わりますか。
吉川 昔は、大店の旦那に手込めにされる娘役が多かったの。でも今は、人気アイドルを誘惑する元ホステスとか・・・(笑)。
谷川 私も棋聖戦というタイトル戦で、郷田君というジャニーズ事務所のタレントのような棋士に挑戦を受けています。すっかり、私の方が仇役ですよ(笑)。
吉川 9月に新橋演舞場のお芝居で、田村正和さんと共演します。チケット2枚送りますから、ぜひ見にきてください。
谷川 ありがとうございます。
―谷川竜王の将棋の祝賀式がよくあります。都合がついたら、一度いらっしゃいませんか。
吉川 私でよかったら、花束を持ってぜひ伺います。ところで谷川さん、10月までまだ日があります。考え直してみませんか・・・(笑)。
「対談場所は、谷川竜王がよくデートした京都の、あるホテルの割烹の一室。初対面とは思えないほど、二人の会話は弾んだ。だが、ドラマの悪女よろしき吉川さんの最後のセリフに、谷川の表情がギョッと変わった―。住む世界はちがうが、お二人の今後の活躍に期待しよう」
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吉川十和子さんは、会社役員、妻、母として大活躍をしている現在の君島十和子さん。
この当時は、君島十和子さんが女優として大活躍をしていた頃だ。
対談の写真を見ると、酒を飲みながらということもあるのかもしれないが、谷川浩司竜王(当時)が、本当に嬉しそうなデレーッとした顔になっている。
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美貌の女優、京都、ホテル内の割烹、これらのキーワードだけでもクラクラしてきそうになるのに、冗談とはいえ「ところで谷川さん、10月までまだ日があります。考え直してみませんか・・・」の殺し文句。
こんな綺麗な女性にこのようなことを言われたらどうなってしまうのだろう、と自分の身に置き換えてついつい考えてしまうところが、私の男性としての通俗度の高さ。
考え直したからといって、「私の友人に結婚したがっている子がいるの。今度紹介しますね」かもしれないし、「やっぱりまだまだ独身が一番ですよ」と言われて終わるかもしれないし、何の担保もされていない言葉であるにもかかわらず、男性の心を鷲づかみにしてしまう名言だ。
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吉川十和子さんは、この数年後、将棋世界のバトルロイヤル風間さんの漫画に登場している。