佐藤康光棋聖(当時)「森内さんも羽生さんも忙しいですからね」

将棋世界2005年7月号、第63期名人戦〔森内俊之名人-羽生善治四冠〕シリーズ前半を振り返る「面白くなる予感」より。佐藤康光棋聖と郷田真隆九段の特別座談会。

第3局 平成17年5月12・13日 
於・和歌山県和歌山市「ホテルアバローム紀の国」
●羽生-森内○

―一手損角換わりが続いたあとの第3局は、オーソドックスな角換わりとなりました。最近はあまり指されなくなった戦型ですが。

佐藤 森内さんは後手で陽動振り飛車を指すことも多いので、羽生さんはそれを警戒して▲6八銀から矢倉模様にしなかったのかもしれません。微妙な駆け引きがありましたが、結局△7七角成でふつうの角換わりになりました。

郷田 しかし、同型角換わりにしたのはびっくりしました。研究の勝負になりやすいのでね。

佐藤 ぼくはここまで来たらやると思いましたよ。昨年と一昨年の名人戦でも一局ずつ同型角換わりを指してますから。

郷田 こういう将棋は、先手が一方的に攻める展開になるので、後手は腹を決めて指す必要があります(笑)。なかなか結論の出ていない戦型ですが、結論が出ていてもおかしくない将棋です。

―過去に数多くの実戦例があり、かなり先の手順まで定跡化されています。

佐藤 6図は、二人が2年前に戦った王位リーグの将棋でも現れた局面です。そのときは同じく後手を持った森内さんがここで△4一桂と打っています。

―「その将棋はひどい負かされ方をしました」と、本局の感想戦で森内名人が言っていました。

郷田 4一から打つと、玉の退路が塞がってしまうんです。本局は△2二桂とこちらから打ちました。山崎六段が指した新手です。

6図以下の指し手
△2二桂▲2五銀△同桂▲3四歩△2四銀▲6五歩△同歩▲同銀△6四歩▲同銀△同馬▲4三歩成△同歩▲6四飛△同金▲5三角△2一玉▲6四角成△1一玉▲4一銀△3九飛▲6九歩(7図)

郷田 かなり深く研究されている戦型なので、この「同型角換わり」に限っては、もしかすると若手棋士の方が詳しいかもしれないんです。

佐藤 ▲4三歩成が羽生さんの新手。この手でどうなるかやってみたかったんでしょう。でも、さすがに詰みまでは研究していないと思いますよ。森内さんも羽生さんも忙しいですからね(笑)。

(つづく)

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詰みまで研究していなければ恐くて指せないような激しい応酬。

とはいえ、まだ中盤なのか、もう終盤の入口なのかの判断が難しい。

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「▲4三歩成が羽生さんの新手。この手でどうなるかやってみたかったんでしょう」

どうなるかやってみたかったんでしょう、というのが羽生善治四冠(当時)と何度も何度も戦った佐藤康光棋聖(当時)ならではの気持ちの理解。

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郷田真隆九段は、第2局が「一手損角換わりは流行の戦法ですが、2局連続で指すとは意外でした」、第3局が「しかし、同型角換わりにしたのはびっくりしました」と、驚き続けている。

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「でも、さすがに詰みまでは研究していないと思いますよ。森内さんも羽生さんも忙しいですからね(笑)」

この変化だけを専門に追求するのであれば、詰みまで研究するということもあるのだろうが、この変化だけに山を張るわけにもいかない。

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というか、羽生善治竜王、森内俊之九段、佐藤康光九段、郷田真隆九段の4人で研究会をやって指し手の追求、研究をすれば、相当なことが解明されそうな感じがする。