将棋世界1993年9月号、中村修七段(当時)の16ページ講座「後手番二手目の可能性」より。
『△4四歩』
「歩をタダであげますよ。取ってきなさい」と△4四歩(9図)。
これもかなり挑発的な一手です。
こんな歩を突かれたらプロなら10人中10人▲4四同角と取るでしょう。中には盤をひっくり返して帰ってしまう人もいるかもしれません。しかし、実際は違いました。この原稿のために研究会で△4四歩を試してみたところ、相手は20分の持ち時間の内、約半分を使い▲4八銀と上がってきました。拍子抜けした私は、逆に盤をひっくり返したい気持ちを堪えて△3四歩と突き、以下普通に指して普通に負かされました。平常心を失った事が敗因でしょう。
さて、△4四歩に▲4八銀の変化を説明しても意味がないので、本筋に入ります。
9図以下の指し手
▲4四同角△4二飛▲5三角成△4七飛成▲5八金右△4六竜▲4八飛(10図)
先手の馬対後手の竜の戦い。長引けば大変ですが、飛車竜交換を迫り先手優勢です。以下△5五竜には▲6三馬が詰めろ桂馬取り。また△4八同竜も▲同金△3四歩▲4四歩と角を押さえてハッキリ良しです。9図から▲4四同角△4二飛▲5三角成の時、△4七飛成が悪く後手苦しくなりました。そこで△3四歩(11図)と変化します。
これに対して香取りを防いで▲9八飛とか▲8八銀と上がれば、今度は△4七飛成で後手も指せます。結局11図からは▲4二馬△同銀▲8八銀(▲9八飛は△3三角打で困る)と進みます。
次の△9五角(12図)が面白い一着です。
王様が動くと銀がタダ。▲7七銀も△同角成(どちらでも)以下後手の駒得となります。正しい受けは▲8六飛か▲7七飛しかありません。飛車角交換の後、しばらくは駒組みが続くでしょう。
2歩得をしている先手が若干有利と言えます。それでも個人的には、飛車を手にしている後手が勝つ可能性もかなり高いと思います。
しかし、先の△2四歩同様△4四歩もかなり相手を刺激するので、勝ったのは良いけど友人を一人失くしたなどという事のない様にお願いします。
(つづく)
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「パックマン」と呼ばれる二手目△4四歩。
1996年に、森内俊之八段(当時)と佐藤康光八段(当時)も同様の「先手やや良し」の結論を出している。
それにしても、12図の局面は歩得をしているとはいえ、▲8六飛あるいは▲7七飛と打たされるのが面白くない。
寒風が吹き込んでくる壁の穴に、手に入れたばかりの大きな宝石を詰め込んで寒さをしのぐ、というような感じ。
先手やや良しということがわかっていても、個人的にはなかなか▲4四同角とは踏み込みたくないところ。
やはり▲7五歩と、おとなしく相振り飛車を目指す指し方をする私なのだろう。