井上慶太六段(当時)のボヤキと嘆き

将棋世界1994年9月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 in 関西将棋会館」より。

 さて、神戸組のお膝元でも今年は将棋祭りが行われた。内藤九段は講演や斎田晴子女流王将との平手戦、谷川王将は40面指し等、仲々ボリュームのある内容。ここで登場するのが井上慶太六段。谷川のイベントを見ながらため息をつく。

 「…はあ、よろしいおまんなあ、こんなに人気があって。いえね、ワシ2日前にここへ来さしてもらいましてん。その時はガラガラやったんですわ。で、会場で『井上先生の10面指しが始まります。挑戦したい人は申し出て下さい』ってアナウンスしてくれはったんやけど、何人来たと思います?」

 「そやなあ、慶太昇級したことやし、ようさん来すぎたんかいな」

 「…二人…」

 「えっ、何?」

 「たった二人しか来てへんのですわ」

 「そうか、まあその二人にやさしく丁寧に教えとったら、そのうち人が集まって来よんで」

 「それがや、その二人っちゅうんが、一人は関西の大強豪の中平貴将さんで、もう一人が支部名人の木村秀利さんや。この二人に平手で指して連敗ですわ。やっとれまへんで」

 「まあまあ、けどそんな慶太見て自信が出て挑戦してくる人がおったんとちゃう?」

 「へえ、おりましてん。子供が挑戦してきたんやけど、手合が15枚落や」

 「なんやて、ほならえーと、何と何を残したんや」

 「歩ですわ。4筋から7筋の歩だけ置いて戦ったんでっけど、そんなん勝てるわけありまへんで」

 まあボヤくわボヤくわ。ファンの皆さん、祭りで慶太と会ったら迷わず「15枚落でお願いします」ってゆうたらなあきませんで。

(以下略)

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アマ大強豪二人を相手の早指し2面指しは、想像を絶するほど過酷なものと思われる。

また、15枚落というのは、なかなか聞かない手合いだ。

かなり猛者な子供が希望を出したのだろう。

神吉宏充七段が描く井上慶太九段は、脚色も幾分入っているのかもしれないが、毎回とても面白い。