振り飛車、絶妙の手順(4)…剱持松二七段(当時)の魔法のような絶妙手

将棋世界1992年12月号、鈴木輝彦七段(当時)の「対局室25時 東京」より。

 隣は飯野-劔持戦で7図。駒得の上に馬を作っている。勝勢といってもいい局面で、10年前なら「板の間にたたきつけてやるか」とでも言って腕まくりをする所だろう。最近の劔持先生からはこうした鋭い発言は聞かれなくなってしまった。

剱持飯野1

 

 どうしたらこんな捌けるのかと棋譜を見たら新手筋を放っていた。8図は先手が▲3六歩とした局面。

剱持飯野2

 

△同歩▲同飛が今までの相場だが、△1五角と出たのが才能を見せた一手。続いて▲1六飛△3三角(9図)で次の△2五銀と△4五歩を見せられて先手が困ってしまった。

剱持飯野3

 

 第二対局室は順位戦ペースでまだ駒組みの段階だった。

 松浦さんと桐谷さんが来て沼さんと話をしている。同年代で話が合うのと夜戦に備えて息抜きをしているのだ。

 40を過ぎて盤の前にずっと座っているのは疲れてしまうようだ。これは40を目前とした私にもよく判る。

 棋士の副業が話題になっていて、誰かが「桐谷さんは証券アナリストになれるでしょ」と言うと「そう思ってたんだけど最近は外れてばかりで自信をなくしちゃったんだ」と本当に残念そうに言った。資格を取るつもりで勉強もしていたそうだからけっして夢ではないだろう。

 田中寅八段の不動産の知識はプロ級らしいし、全く多才な人が多い。

 そこに、劔持先生が現れて「大丈夫、君ならできるよ。自分の思った事と反対を勧めればいいんだから」と△1五角のような手を言って部屋を出ていった。

 何と気の利いた事を言うのだろうと一同感心したものだった。この日の連盟では「劔持株」の値上がり率が一番だったようだ。

(以下略)

—–

8図からの△1五角~△3三角が魔法にかかったような不思議な気持ちにさせられる妙手順。

あっという間に先手は、△2五銀で飛車が詰んでしまう悩みと△4五歩から馬を作られてしまう悩みを同時に抱え込んだことになる。

実戦は、9図以下、▲3七桂△4五歩▲同桂△同銀▲同銀△9九角成と進んで、後手は駒得の上に馬を作って大きな戦果を上げる。

—–

剱持松二九段も、株で数億円単位の利益を出したりその反対の局面もあったりと、稀代の相場師のような株式売買の強者。

剱持が勝つと言えば絶対勝つ。(1)

「自分の思った事と反対を勧めればいい」と語ったのも、自分の株の修羅場の頃を思い出しての実感から来たものかもしれない。