将棋世界1990年1月号、「私のホリデー」より、升田幸三実力制第四代名人。
ヒゲの先生、升田実力制第四代名人は今年(1990年)、6回り目の年男を迎えることになった。東京都中野区鷺ノ宮のご自宅を訪問し、近況を伺った。
「足の加減がよくないですからね。滅多に外へは出歩きません。のんびりとしてます。日に三合程の焼酎のお湯割り、これは体の為というよりアルコール好きなんですね(笑)。時おり送られてくる出版社からの本を読んだり」
ご自身で執筆されることは?
「今は頼まれても断ります。(本で)教育するとか人生訓をたれるとか、とんでもないことで。ところが、将棋のプロで、よく判らん者が説教する嫌いがありますね。肩書き九段で実力三段の思い上がっているのが多いのが非常に困る」
この手厳しさが、最近特に関心があるという政治の話となると、
「ろくろく判りもせんのに講釈たれるバカ者が多い。(今の政治家は)国民を軽蔑してますね、国民が大事というのは口先だけで、話にならん」
お好きな碁の方へと話を向けてみた。
「つい先日九州の知人と打つ機会がありましてね、昼の1時から8時まで8番打ちました。さすがに疲れました。碁は2目か3目ぐらい置くぐらいの者と打つのが一番楽しいですね」
17歳の時からというから、かれこれ55年の碁歴である。升田先生の、碁を打っている時の表情は本当に楽しそうで生き生きとしていられる。
「将棋の方は指す事はもうほとんどないです。新聞やテレビはよく見ますが、若い人が活躍するというのはいい傾向ですね」
そこで読者へ将棋が強くなるには、というアドバイスをいただいた。
「やはり好きでないと。それと熱心であること、研究すること、加えて工夫・集中力が必要ですね。好きだけど熱心じゃない、研究は嫌いだ、工夫も集中力もないじゃ、強くなれる訳がない」
ぐびりとお湯割りを一口。一時代を築いた天才の言葉は、ヘボ記者にとってかみしめるに充分過ぎるものがあった。
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将棋をもっと強くなろうという努力を怠っている私にとっては、とても耳の痛い言葉だ。
しかし、よくよく考えてみると、好きなことは当然としても、
- 熱心であること
- 研究すること
- 工夫、集中力
の三要素を真剣に実行できたら、アマ高段者になってしまうのではないか。
升田幸三実力制第四代名人が追求するものは常に深いということなのだろう。