鈴木大介八段「木村さんと行方さんは親友同士だそうですが、それで木村さんはあんな指し方をしますかね」

将棋世界2004年4月号、河口俊彦七段の「新・対局日誌」より。

 昇級の一番を迎えた行方六段は木村七段と戦っていて、局面は18図。ここから木村七段の気持ちのよい手順がつづく。

木村行方1

18図以下の指し手

▲3七桂△7六歩▲8六角△2六歩▲2五飛△同飛▲同桂△2四角▲4六歩△3九飛▲2二飛△3三桂▲2四飛成△2五桂(19図)

 気持ちのよい手とは、▲3七桂のような手を言う。2筋からの攻めを逆用して、▲2五飛と飛車交換を狙う。そして飛車交換後に、▲4六歩と突いたのは渋い手で、△5七角成と切らせないぞ、というわけ。

 そうして▲2二飛と打てば、後手は角の処理に困った。△4二角とか逃げても仕方がないから、エイッ!とばかり△3三桂だが、▲2四飛成と角をただで取られてはひどい。

木村行方2

 19図以下は、木村君だから▲2五竜△1九飛成▲2六竜と指す、とみんな言っていたが、実戦は、▲5二角と打ち、△6二銀▲2五角成とし、次に▲6九馬と引きつけようとした。何もさせないぞ、という指し方だが、いくらなんでもこれはやりすぎ。今言った▲6九馬まで進んだとき、△7七桂と打ち込まれ、ちょっとうるさくなった。

 後日、この将棋を見ていた鈴木(大)八段が「木村さんと行方さんは親友同士だそうですが、それで木村さんはあんな指し方をしますかね」と言えば、木村七段はただ苦笑していた。この世界では、同門とか親友同士のとき、張り合うことはよくある。

 19図から紛れが生じたものの、逆転にはほど遠く、木村七段が圧勝した。行方六段からすれば、まったく力を出せなかった一戦で、「矢倉」で戦うんだったの悔いもあろう。しかし、負けてもまだトップである。

(以下略)

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▲4六歩が渋い。このような手はとても参考になりそうだ。

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19図から、いつもの木村一基七段(当時)なら▲2五竜△1九飛成▲2六竜が自然なところ、河口俊彦七段が書いているように、相手が仲の良い行方尚史六段だったから▲5二角~▲2五角成~▲6九馬の超激辛路線となったのだろうか。

そういえば思い出すのが、一昨年のNHK杯戦 三浦弘行八段(当時)-杉本昌隆七段戦。

三浦八段は対局前のインタビューで、「杉本七段には公私にわたってお世話になっています。棋士である前に、人としてどうあるべきか意識させられる、最も尊敬する先輩の一人です。人間性では遠く杉本さんに及ばないので、将棋くらいは勝ちたいですね」と語っているが、この時の対局で三浦八段は、インタビューでの言葉が信じられなくなるような、血も涙もない激辛な手を連発して、杉本陣をほとんど全駒に近い状態にしてしまう。

やはり、親しい棋士との対局の場合、激辛な手が飛び出す可能性が高いものなのかもしれない。

その時の棋譜→NHK杯テレビ将棋トーナメント棋譜 三浦-杉本戦(NHK 囲碁と将棋)