ザ・王将戦(山田道美八段の「大山は田舎将棋」)

近代将棋2001年2月号、元毎日新聞記者の故・井口昭夫さんが王将戦の歴史を綴った「ザ・王将戦」より。

 大山からタイトルは奪えなかったが第15期、山田道美八段の挑戦は話題になった。二上王将を翌年に指し込んで借りを返してからの大山はさらに一段と凄みを増した。その大山に対して公然と打倒を宣言したのが、山田であった。彼は将棋連盟の近くに研究室を構え、日夜、大山の振り飛車に対する秘策を練った。

 その頃まで、対局者は往復の旅行を一緒にするのが普通だった。山田は、「対局の朝、東西から名乗りあって勝負するのが当然」と、同行はおろか、前夜の宿所も別にした。大山はカチンときた。

 4局終わって、山田の3勝1敗となり、ほとんどの人が勝利を疑わなかった。このとき師匠の金子金五郎九段は手紙で「勝つな」とさとした。勝利を目前にした弟子の浮つきがちな気持ちを制した言葉である。

 第3局が米子で行われたとき、山田は対局前夜、夢を見た。相手の王を詰まそうとするのだが、こちらと思えばあちら、王が動いてつかまらない夢だった。大山は麻雀が終わった深夜「酒が飲みたい」と所望した。宿は寝静まって人の気がない。仕方なく、一緒に厨房に入っていって、酒を調達した。珍しいことで、大山もまた、意識過剰で眠れなかったのだろう。

 小田急新宿駅へ送る途中、山田は私に「大山の田舎将棋に負けない」と言った。びっくりした。大山名人と毎日の関係はよく知っているはずなのに。もっとも、私は当然のことながらその言葉は伝えなかった。

 5、6局に大山は連勝、第7局は箱根強羅の石葉亭で行われた。朝、芦ノ湖のホテルからやってきた山田は「ホテルの支配人から巌流島の戦いですね、と言われた。武蔵にならって一時間ほど遅れてこようかと思った。それなら芦ノ湖を渡ってくるのだったかな」と冗談を言い、大山は難しい顔をして聞いていた。この第7局は山田の完敗で大山は危うく防衛を果たした。

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大山康晴十五世名人の壁に阻まれた棋士はあまりにも多い。

山田道美八段も、そののうちのひとり。

私は子供の頃から振り飛車が好きだったので、山田道美八段の著書を立ち読みするたびに(振り飛車がいじめられているので)、落ち込んでしまって買うことはなかった。

しかし、「現代将棋の急所」などは名著と聞く。

私が立ち読みをして落ち込んでいたのは、この「現代将棋の急所」だったのだ・・・

その頃は文藝春秋社から出版されていたと思う。

現代将棋の急所
価格:¥ 3,059(税込)
発売日:1990-07
山田道美将棋著作集〈第1巻〉近代戦法の実戦研究 1 中原誠編 (1980年)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:1980-03
山田道美将棋著作集〈第2巻〉近代戦法の実戦研究 (1980年)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:1980-04
山田道美将棋著作集〈第3巻〉近代戦法の実戦研究 3 (1980年)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:1980-06
山田道美将棋著作集 第4巻 自戦記
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:1980-01
山田道美将棋著作集 第5巻 プロの目とアマの考え
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:1980-01

山田道美将棋著作集〈第6巻〉初心ノート (1980年)
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:1980-12
山田道美将棋著作集〈第7巻〉日記 (1981年)
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:1981-02
山田道美将棋著作集〈第8巻〉随筆・評論・詰将棋 (1981年)
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:1981-04