森下卓八段(当時)の法則

将棋世界2003年4月号、森下卓八段(当時)の第28期棋王戦〔羽生善治棋王-丸山忠久九段〕五番勝負第1局観戦記「強さと勝つ力」より。

 絶好調の羽生棋王とは対照的に、挑戦者の丸山九段は、やや元気がない。

 もちろん、挑戦者になるのだから強いに決まっているが、いまひとつ精彩に欠けている気がする。

 丸山さんの最近の棋譜を並べてみても以前の丸山流の迫力を感じないことが多い。24連勝の記録を誇り、常に勝率トップを争っていた六、七段時代はもとより、佐藤康光さんから名人位を奪い、谷川さんの挑戦を退けて名人位を守った頃は、強さと迫力に満ちていた。

 最近の不調は、本人も周囲も不可解の一言だろう。

 話が飛んで恐縮だが、宇宙の全ての存在は万有引力の法則を受けているという。全ての存在には引力があり、お互いに引き付け合うという万有引力の法則。この法則は、勝負の世界にも厳然と貫かれているように思う。即ち、勝ち星は勝ち星を引き寄せ、負け星はまた負け星を引き寄せてしまう。勝つためには、とにかく勝たなければならないゆえんだ。

 万有引力の法則が、よりハッキリした形で現れているのが、資本主義社会における資本の雪ダルマの原理だろう。雪ダルマのように、資本が資本を吸収して巨大化してゆくという。

 雪ダルマの芯は、強固であるほど引力は強い。

 強固な勝つ意志が勝ち星を引き寄せ、勝ち星がまた勝ち星を呼び込む。

 逆に負けが負けを引き寄せるのならば丸山九段の不調は、不調自体が呼び込んでいるのかもしれない。

(以下略)

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将棋 棋士別成績一覧」のデータによると、丸山忠久九段のこの頃の戦績は、

10月 5勝1敗
11月 3勝2敗
12月 5勝3敗
1月 5勝1敗

と、決して悪くはない。

それでも、森下卓八段(当時)が不調と書いているのだから、勢いの良い時の丸山九段がいかに凄かったかが分かる。

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「勝ち星は勝ち星を引き寄せ、負け星はまた負け星を引き寄せてしまう」

たしかに、将棋ウォーズをやっていると、連勝している時ほど、一手指して投了をする人がいたり、すぐに接続切れになったりする人がいたりで、更に連勝数を伸ばすことが多いような感じがする。

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森下八段は、他にも法則を作っている。

将棋世界1995年7月号、天野竜太郎さんの第53期名人戦〔羽生善治名人-森下卓八段〕第3局観戦記「柔らかさの勝利」より。

 第1局の逆転負けの後、森下は、羽生マジックへの予防策として「4・3・2の法則」というものを作ったそうである。序盤に4時間、中盤に3時間使い、終盤に2時間残しておけば羽生マジックに陥ることもないというわけである。

 △7五銀のところで残り時間は2時間。森下にとっては理想的な進行である。

(以下略)

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「4・3・2の法則」の有効性はまだ検証はされていない。

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法則とは、ある現象とある現象の関係を指す言葉。

定理は、公理・定義だけから論理的に導き出せる命題。

定跡は、法則というよりも、定理の組み合わせに近いのかもしれない。