12年前の書き初め棋士の年賀状(前編)

今年は未年。

2015年の年賀はがきのひつじはマフラーを巻いて手に編み棒を持っているが、一回り前の未年(2003年)の年賀はがきではひつじが編み物をしている最中の姿が描かれており、「年賀状のヒツジが12年越しで編み物を完成させていた」と話題になった。

このお正月は、2003年の棋士の年賀状を見てみたい。

将棋世界2003年1月号付録、「平成15年 書き初め棋士の年賀状」より。

竜王 羽生善治

 謹賀新年、明けましておめでとうございます。

 何かと暗い出来事の多い昨今ですが、お正月は気分を新たにして前向きな気持ちにさせてくれます。また、社会全体もお休みになるので、街を歩いていても空気が穏やかになるような気がします。

 新年という短い期間ではなく、気持ちのゆとりを一年を通して持って行ければと考えています。

色紙…玲瓏

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名人 森内俊之

 皆様、新年明けましておめでとうございます。

 昨年は、この世界に入った時からの最大の夢であった名人位を獲得することができ、素晴らしい年になりました。またそれに伴い、いろいろと新しい経験をすることができ、本当に学ぶことの多い一年でした。

 ただ年度後半は、イメージ通りにいかないこともありましたので、研究時間を増やして勢いのある将棋を指していきたいと思っています。

色紙…一陽来復

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棋聖王将 佐藤康光

 新年明けましておめでとうございます。

 本年も宜しくお願い致します。

 昨年は私自身も初めての「二冠」獲得で充実した年でしたが後半はちょっとだらしなかった。本年は一年通して頑張れたらと思っています。

 欲張りかもしれませんが、流行を追いながら独自の境地も広げられたらと思っています。

 ご声援の程宜しくお願い致します。

 まだまだどんどん強くなるぞ!!

色紙…天馬行空

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王位 谷川浩司

 年賀状の季節になると、今年は何枚用意すれば良いかといつも悩む。年内に出すのが約600枚。これにファンの方から頂くものが加わるが、前年の活躍度によって実は微妙に枚数が変わってくる。

 お正月の予定は、1・2日が両親・兄一家とホテルで過ごし、3・4日は妻の実家のある名古屋へ、というパターンが多い。年賀状の返事を書く暇がなかなかないのが悩みの種である。

色紙…千里飛翔

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九段 丸山忠久

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年は、あまり調子がいいとは言えない内容でした。

 2003年は、初心に立ち返って勉強し直し、しっかりした実力をつけていきたいと思います。

 冬の寒さの中でも、木々や草花は、来春の息吹に備えている。

 そうした、自然界の強さを見習っていきたい。

色紙…鍛

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九段 藤井猛

 私の無精は鬼に金棒、いや無精者に無精髭で始末が悪い。将棋指しはマネか無精か極端な者が多いと思うが、私は中でも無精の最右翼を自認せざるを得ない。日頃ファンの方に手紙やプレゼントをいただいても、後で返事を書こうと思っている間に光陰矢の如し。今度とこの次には会ったことがないとはよく言ったものだ。ただ、なぜか年賀状だけは毎年必ず返礼している。小学校からの習慣は偉大だ。10日の菊6日の菖蒲でもご容赦あれ。

色紙…素心

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羽生善治名人は2003年のこの時は三冠、2015年は四冠というわけで、その勢いはとどまる所を知らない。

あらためて、凄いことだと思う。

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「十日の菊六日の菖蒲」という言葉を初めて聞いたので調べてみると、

  • 菊は九月九日の重陽の節句に用いるもので、九月十日では間に合わない
  • 菖蒲は五月五日の端午の節句に用いるもので、五月六日では間に合わない

ことから、時機に遅れて役に立たないことの例え、ということのようだ。

現代に置き換えていえば、「15日のチョコレート、26日のケーキ」となるのだろうか。

しかし、2月15日のチョコレートも12月26日のケーキも、食べれば美味しいわけで、役に立たないということでもない。

そういう意味でも、昔の人は本当にうまい言葉を考えたものだと思う。