握り煙詰めと、その後のラーメン店での会話

近代将棋1996年10月号、池崎和記さんの「福島村日記」より。

将棋世界1996年9月号より、撮影は中野英伴さん。

 関西将棋会館に竜王戦決勝トーナメントの浦野-井上を見にいく。大勝負である。この日は4組敗者戦の郷田-田中魁秀もあった。

 深夜、感想戦が終わってから浦野七段が「今度、近鉄将棋まつりで、にぎり詰めをやるんですよ、ケムリの」と言う。

 私「へーっ、けむり詰めですか。それは大変ですね」

 浦野さん「いや、そんなに大変じゃないです。1分もかからないですよ」

 これには周りにいた棋士たちもビックリ。「じゃあ、試しにやってみますか」と私が言ったら「ええ、いいですよ」。

 私が駒箱に手を入れて、駒をにぎった。14~15枚あったろうか。

 浦野さん「池崎さんはええ人や。こんな駒だったら簡単です」

 何が簡単かわからないけれど、浦野さんは手際よく駒を並べて、本当に1分もかからないうちに詰将棋を作り上げてしまった。念のため手順を見せてもらったら、確かにピッタリ、けむり詰めになっている。

 浦野さんによると、けむり詰めの収束を何パターンか持っていて、最後はその形になるように作ればいいから”簡単”なんだそうだ。それにしても1分以内で作れるというのは大変な才能だ。

 けむり詰めの実演が終わってから、数人の棋士と会館近くのラーメン屋へ。

 カウンターに座ると、平藤さんが郷田さんに聞いた。「西田ひかるちゃんとの話、本当はどうなん?」

 以前、テレビのワイドショーで、郷田さんと西田ひかるちゃんのロマンスが報道されたことがあったので、当事者に真相をたずねたわけ。まるで芸能レポーターである。

 郷田さんははっきり否定していた。つまり、ウワサは完全なガセネタだったわけ。そもそも、ひかるちゃんとは一度しか会ったことがないんだそうだ。

 まてよ―と私は考えた。もし仮にウワサが事実だとしても、郷田さんは否定するのではないか、と。まあしかし、郷田さんがウソを言うはずはないから、やっぱりガセネタなんだろう。

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「池崎さんはええ人や。こんな駒だったら簡単です」

「握り詰め」でも大変なことなのに、「握り煙詰め」が1分以内にできるなど、浦野真彦七段(当時)は神の領域に達しているとしか言いようがない。

なおかつ、長時間の対局終了後のこと。

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その流れのラーメン店。

「西田ひかるちゃんとの話、本当はどうなん?」

郷田真隆六段(当時)は、将棋世界誌上で1992年12月に西田ひかるさんと対談をしている。

郷田真隆王位(当時)・西田ひかるさん対談

「そもそも、ひかるちゃんとは一度しか会ったことがないんだそうだ」の一度は、この時のこと。

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「郷田さんがウソを言うはずはないから、やっぱりガセネタなんだろう」

まさしくその通り。

そもそも、この頃は、何かあればFRIDAYやFOCUSに撮影されてしまう時代。また、芸能レポーターも猛者揃いの時代だった。

ワイドショーでその話題が続かなかったと思うので(あることも知らなかった)、何もなかったというのは、この方面からも証明されるだろう。

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いつも思うことだが、誤報はもちろんのこと大誤報でも、報じた媒体は訂正報道をしないケースが多い。した場合でも申し訳程度。

昔はこれでもどうにかなっていただろうが、現在はSNSなどで一次情報(報道は二次情報)を確認できる時代になったので、誤報や切り取り報道などはすぐに判明してしまうことも多い。

ネットの功罪はそれぞれいろいろとあるけれども、この部分は「功」の大きな部分だと思う。