順位戦のサメ、カツオ、イワシ

将棋世界2004年5月号、河口俊彦七段(当時)の「新・対局日誌スペシャル 第62期順位戦最終局」より。

 これはA級にかぎらないが、各クラスとも中身は3つくらいに分かれている。サメ、カツオ、イワシで、サメが昇級候補、イワシが降級候補なのはいうまでもない。その格付は、各棋士がそれぞれ作っていて、誰も口に出さないが、だいたい一致している。そして仲間からイワシと思われると、辛いことになる。大山名人が、やっとA級残留を決めたとき、自嘲まじりに呟いた「みんなに危ないと思われたら長くない」はそれを言っている。

 また、A級は1年で落ちるが、表にあらわれない降級点みたいなものがある。つまり、長年上位にいる大棋士は、1年の不調では落ちない。みんな、負け越して順位を7位とか8位に下げ、そして持ちこたえられなくなって落ちる。

 そこで谷川王位の星を見ると、今期は出来がわるく、4勝4敗である。もし最終戦で負けると、落ちはしないが、順位が大きく下がり、6位か7位になってしまう。それは下り坂にさしかかったと思われかねない。タイトルを保持している実力からして、すぐ勝ち越して順位を戻すだろうが、1年間は、下位にいる自分の名をみんなに見つづけられることになる。プライドが高い谷川王位だから、それは不愉快だろう。

 そんな想像をして対局中の谷川王位を見ると、いつもと表情が違っているように思えた。戦いは負けられぬ一戦らしく、相穴熊の長期戦。

(以下略)

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サメ、カツオ、イワシ。

サメとイワシは分かるのだが、なぜ中間がカツオなのか、例えばなぜマグロではないのか、調べてみた。

マグロの餌はサバ・サンマ・イカなど。

一方、カツオの餌にはカタクチイワシが主に使われるという(実際のカツオ漁は、いくつものバケツでカタクチイワシの生餌を海に投げ入れ、寄って来たカツオを疑似餌で釣る)。

マグロもイワシを食べることがあるのだろうが主流はもっと大きな魚類。カツオはイワシが大好物。

そういうわけで、サメとイワシの間にカツオが入るのだと考えられる。