郷田流振り飛車の捌き

郷田真隆九段らしさ満点の、郷田流振り飛車の捌き。

郷田真隆九段の2000年の著書「実戦の振り飛車破り」より。

平成9年8月18日
第23期棋王戦本戦
▲郷田真隆六段 △加藤一二三九段

 加藤一二三九段は強い信念を持って対局に取り組んでいる棋士である。有名なのは矢倉▲3七銀戦法を指し続けていることと、対振り飛車戦における棒銀戦法の連続採用だ。また序盤に長考することでも知られており、常に「最善手はなにか」を考えている求道派の棋士である。

 この対局が行われた平成九年、私はかなりのハイペースで対局しており、先手番では矢倉ばかりを指していた。本局は少し気分を変えてみたかったことと、加藤九段の振り飛車に対する指し回しを体感したいという気持ちもあって三間に飛車を振ってみた。四間でなく三間なのは、人と同じことをやりたくないということもある。

(中略)

郷田振飛車1

 1図以下の指し手
▲6七銀△7六歩▲同銀△7二飛▲6七銀△7三銀▲9五角(2図)

 三間飛車に対して、△7五歩とその筋から仕掛けられた、

(中略)

 ここは▲6七銀と受けるのが定跡。△7三銀と繰り出してきた手には▲9五角(2図)が面白い一着だ。

 郷田振飛車2

  ▲9五角は▲7三角成と強襲する手を見せて居飛車の動きを牽制している。本譜は△6四銀左と堅く受けてきた。

(中略)

郷田振飛車3

 3図以下の指し手
▲5五歩△8六竜▲5四歩△6二銀▲8三歩(4図)

 3図からの▲5五歩が会心の一手だった。8七の角が後手玉をにらんでいるため、△同歩は▲6四歩の王手が厳しいし、△5五同竜は▲7七角で竜を殺せる。本譜は手抜きだが、▲5四歩が味良く、手ごたえを感じた。

郷田振飛車4

4図以下の指し手
△同銀▲6四歩△7六歩▲6三歩成△同金▲8四歩△7四銀(5図)

 飛車の頭をたたいた4図の▲8三歩も手筋で、△同飛は▲7二歩成、△9二飛は後に▲7二角が残る。△同銀と取らせて後手陣を乱し、振り飛車好調だ。

郷田振飛車5

 5図以下の指し手
▲7二歩成△同飛▲8三歩成△同銀▲5三歩成△同銀▲6五角(6図)

 5図から三連続の歩の成り捨てが決まり、▲6五角(6図)の王手銀取りがかかった。

 後手は銀を犠牲に陣形をまとめたが、やはり現実の銀得は大きく、振り飛車側が優勢だろう。

郷田振飛車6

(以下略)

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「実戦の振り飛車破り」は郷田真隆九段にとっての初の著作。実戦21局に基づいて振り飛車破りの考え方、手の作り方が解説されている。この中には、六段当時の郷田九段が振り飛車を採用した2局(いずれも勝局)、振り飛車側の勝局2局も含まれている。

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「四間でなく三間なのは、人と同じことをやりたくないということもある」というのが郷田九段らしい。

また、同書で郷田真隆九段は次のように書いている。

 私は、振飛車の中では三間飛車が一番好きなのである。角道を開け、飛車を振るときに行けるところまでビュンと振る感じが好きなのだ。

「行けるところまでビュンと振る」。たしかに、三間飛車は角の隣まで、行けるところまでビュンと振る。

行けるところまで行く、というのも郷田九段らしい剛直な雰囲気だ。

三間飛車が振り飛車の中では最も捌きの要素が強く攻撃的であることも、好きな理由になっているのかもしれない。

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3図の▲5五歩からの郷田六段の指し回しが絶妙だ。

▲5五歩△同歩▲6四歩の後、△7六歩とされた時の変化はわからないが、本譜の▲5五歩△8六竜▲5四歩を△同銀は▲7一角で、4図から4手目の▲6三歩成を△同銀も▲7一角で先手が指せる。

5図の1手前の▲8四歩を△同銀なら、▲8三歩が用意されている。△同飛は▲7二歩成、△9二飛は▲7二角で先手有利。

5図から6図への三連続歩成からの王手銀取りは、まるで魔法を見ているようだ。

まさに、振り飛車を通して表現された郷田流の指し回し。

数年に数局でも良いので、郷田九段の振り飛車も、これからも見てみたいものだ。