郷田真隆1級と森内俊之1級の激突

将棋世界1984年12月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 先月号で注目株と推した、森内1級と郷田1級の激突があったので、その模様をお伝えする。

 2図がその終盤戦。両者強気の棋風らしく横歩取りの大乱戦となったが、その名残りが右翼の金銀に見える。

郷田森内1

 森内が▲9六歩ともう一度下段に逃げ込みを企てたところを、郷田は△7四飛▲8六玉△8五銀▲9七玉△9四歩と激しく追撃したが、図で△8二飛とボンヤリ打った方が良かったらしい。

 本譜でも郷田が残していたのだが、△9四歩に▲5三歩がきわどい利かしで、△同金と郷田がひるんだところを▲3一角(3図)と打って森内が逆転勝ちに成功した。

郷田森内2

 △5三同金では、△9六銀▲9八玉△7七飛成(参考図)とすれば、後手玉にはきわどいながらも即詰みはなかったのであった。

 期待にたがわぬ、迫力あるたたき合いだった。

郷田森内3

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将棋世界1985年6月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 本欄の推奨株の一人である森内俊之君が初段に上がった。羽生より年下の有段者が出現したのは喜ばしい限り。このまま順調に伸びてほしいと願う。

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将棋世界1985年7月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 先月号で、最年少有段者として森内俊之新初段の誕生をお伝えしたばかりであるが、今月、またしても最年少をぬりかえる新初段が産声をあげた。

 46年3月17日生まれ、森内よりさらに5ヵ月若い、郷田真隆君がその人である。以前、この欄で”恐怖の勝率8割男”として紹介したことがあるのでご記憶の方も多いと思う。1級に上がってからはさすがに8割も勝つわけにはいかなかったようだが、それでもこのスピードは速い。昇段の一番は小林広明初段との平手戦だったが、力強い攻めで快勝、14勝5敗で入品をかちとった。

 2図は、昇段直後の一局で、この時点で5連勝と好調な中田功二段との対戦の一局面。勢いにまかせ、▲4三角から▲6三銀と元気よく攻めたてたところまではいつもの郷田と変わらぬ指し口に見えたが、郷田自身は「ちょっと手ごたえが違う。負かされそうだ」と感じていたらしい。

郷田中田1

2図以下の指し手
△7七桂▲同桂△4一角▲7二銀成△同金上▲3一飛成△1四角▲5九桂△4六飛成▲5四角成△7一銀▲4七歩△5七歩▲同金直△4五竜(3図)

 中田の△7七桂は手筋に見えたが実は勇み足の一手。予定は以下△1四角▲1二飛成△5八角成▲同金△7九金▲8八玉△6九飛成で一手勝ち、という読みだったらしいが、このあと▲6一角成があり△同金▲7二銀成△同金▲7一銀△同玉▲6三桂という順で中田玉に即詰みが生じているのだ。

 △4一角は急ブレーキをかけて軌道を修正した手だが、さすがに絶好調の二段が指した手だけあって正しい応急処置となっていた。以下、譜のように進んで見事な泥仕合であるが、この展開は中田が最も得意とするパターンで、しつっこく食い付いてくる郷田をふりきって中田が6連勝を飾った。こちらも「素質馬復活」といったところである。

郷田中田2

 郷田の元気のよい将棋が上位陣にどこまで通じるのか、これからも注目していただきたい。

 筆者は、どこまでいっても台風の目であり続ける力があると思っている。

写真: DSC_0188

将棋世界1985年7月号掲載の写真

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1級になったのが同じ日で、初段になったのも1ヵ月しか違わない郷田真隆初段(当時)と森内俊之初段(当時)。

2図は、硝煙がいたる所から立ち込めているような局面。

先手玉、後手玉とも、この局面からこれほど早く寄ってしまうのだから将棋は恐い。

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NHK将棋講座2011年12月号、後藤元気さんの「渋谷系日誌」に、郷田奨励会員と森内奨励会員が、奨励会員の間での流行が加熱したため将棋会館内では禁止されていたトランプを隠れてやって、会館の雑務を取り仕切っていた女性に見つかり大目玉を食うエピソードが出てくる。

この対局は、そのような時期のものなのかもしれない。

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郷田真隆初段-中田功二段戦。

△7七桂から突如予定変更の△4一角が凄い展開だ。

見事な泥仕合という表現が面白い。