木村一基三段(当時)「ライバル視している金沢三段、真田三段の2人が競争相手です。ガンバリます」

将棋世界1989年8月号、駒野茂さんの「関東奨励会レポート」より。

 野間三段以来、関西とともに新三段誕生の報がなかったが、久々に聞けた。豊川孝弘新三段だ。

 彼は以前から有望視されていたのだが、二段に上がってからピタリと勢いが止まり、鳴かず飛ばずの状態だった。それが、ウエイトリフティングを始めてから、急に将棋に勢いが出た。私生活のリズムが良くなったのが、将棋に影響したのだと思う。

 22歳での三段は、決して早いとはいえないが、勢いを取り戻した元有望株に熱いエールを送りたい。

(中略)

 久々の大型新人か!こう驚愕させられたのは15歳の三浦弘行初段だ。1988年11月28日の例会から1989年6月7日までの成績が23勝9敗(.718)と恐るべき成績。この強さならば二段も間近だ。

(以下略)

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将棋世界1990年11月号、駒野茂さんの「関東奨励会」より。

 第8回から参加となる、新三段5人に抱負を聞いてみた。

中座真三段(20歳)

「ガンバルだけです。一番一番大切に指していきたいです」

 真面目な性格でコメントも控えめ。しいて言えば、上位の6人は注意印(近藤、藤井、平藤、豊川、北島、深浦)、とのこと。

石掘浩二三段(20歳)

「みんな強いので、5割の成績を取れるかどうか。これまで(二段以下との対戦)とは違い、甘くはないですから。特に注目しているのは、豊川、藤井、飯塚さんです」

金沢孝史三段(17歳)

「一局一局を丁寧に指していきたいですね。ライバルですか、そうですね、木村三段です。気になる存在というか、強いと思うのは藤井三段です」

木村一基三段(17歳)

「ライバル視している金沢三段、真田三段の2人が競争相手です。ガンバリます」

真田圭一三段(17歳)

「強いと思う人は?ですか。そう言われても思い浮かばないですね。旧メンバー(第7回までの三段)とは当たったことがないし。正直分からないです。とにかく力一杯戦うだけです」

 5人のコメントを聞いた感じでは、人の強弱どうこうより、とにかく自分自身がガンバルしかない、という気構えのようだ。しいてあげるなら、藤井、深浦、豊川あたりを気になる存在として見ていて、特に藤井は高く評価していた。

 筆者の予想の、藤井は有力と思っている。将棋に勢いを感じるからだ。もう一人となると難しい。本来なら、ノータイムで豊川とあげたいところだが、生活リズムの乱れが気になる。以前のように体から”将棋に勝つ”という気迫が伝わってこない。人気にあげない理由がそれだ。新三段の評価は難しいが、旧メンバーの負け組よりは強いだろう。

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「久々の大型新人か!こう驚愕させられたのは15歳の三浦弘行初段だ」

三浦弘行九段が将棋雑誌でとりあげられた、初めての記事だと思う。

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「本来なら、ノータイムで豊川とあげたいところだが、生活リズムの乱れが気になる。以前のように体から”将棋に勝つ”という気迫が伝わってこない」

このように書かれた豊川孝弘三段だが、翌期に四段に昇段している。

二段時代が4年だったが、三段リーグは2年(4期)で卒業した。

豊川孝弘四段(当時)「人に情に燃えました」

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この期の四段昇段は、藤井猛三段と平藤眞吾三段。

以後、(当時無印は三段)

四段昇段 当時
豊川孝弘七段 1991/10/1
深浦康市九段 1991/10/1
真田圭一八段 1992/4/1
飯塚祐紀七段 1992/4/1
三浦弘行九段 1992/10/1 二段
伊藤能七段 1992/10/1
川上猛七段 1993/4/1 初段
久保利明九段 1993/4/1 初段
行方尚史九段 1993/10/1 初段
岡崎洋七段 1993/10/1 二段
窪田義行七段 1994/4/1 二段
北浜健介八段 1994/4/1 1級
矢倉規広七段 1994/10/1 初段
鈴木大介九段 1994/10/1 初段
北島忠雄七段 1995/4/1
勝又清和六段 1995/4/1 二段
松本佳介六段 1995/10/1 二段
田村康介七段 1995/10/1 2級
堀口一史座七段 1996/4/1 2級
中座真七段 1996/4/1
近藤正和六段 1996/10/1
野月浩貴八段 1996/10/1 1級

と四段昇段が続く。

木村一基三段が四段になるのは、1997年4月。

木村一基九段がいかに三段時代苦労したかがわかるとともに、この時点での二段以下の奨励会員にどんどん抜かれていったのだから、本当に辛かったことだろうと感じさせられる。

木村新四段誕生の日の模様を、奨励会時代のライバルだった真田圭一五段(当時)が書いている。

木村一基新四段と小林裕士新四段誕生の日